【保育園版】マネジメントの基礎知識|保育士が身につけたいリーダーシップの4機能

保育のリーダーシップ

投稿日:2022年9月28日

リーダーシップはリーダーという役割と切っても切り離せない関係にあります。園長という園のリーダーとして自分自身も発揮しながら、園内に任命したリーダー職員たちにも身につけ発揮してほしいものでしょう。リーダーシップを発揮するとはどういうことなのか、その機能を理解することは、リーダーとしての自分を振り返ったり、リーダー職員のリーダーシップを高めたりするのに役立ちます。

目次

保育園のリーダーシップとは

リーダーシップとは、リーダーという役割を持った人が発揮するべき力のことですが、実はリーダーを任命された人だけが発揮している力というわけではありません。

リーダーシップは例えば、子どもたちの集団の中もリーダーシップを感じる場面があります。何人かのグループで遊んでいるとき、決まって誰かが「今度はこれをしよう!」「あっちで遊ぼう!」と言って仲間を引っ張っていきます。その子はグループの中のリーダー的存在であり、無意識にリーダーシップを発揮しているのです。このリーダーシップとはつまり、「ある方向への価値を伝え、仲間を動かす影響力」であるといえます。

では保育園という組織ではどうでしょうか。言うまでもなく、リーダーシップを発揮すべき立場にあるのはリーダーです。リーダーは組織上の役割としてリーダーシップを大いに発揮することを期待されています。先ほどの例と重ねてみると、保育園のリーダーのリーダーシップとは「園の目標を達成する方向へ、職員を動かしていく影響力」ということになります。

リーダーシップの役割

①方向性の選択

霧がかった道を行くのが怖いと感じるように、組織や課題の方向性が不明であるほど職員の不安につながります。リーダーからの力強い言葉で方向性を示すこと、そしてそのための有用情報や明確な価値観の存在が職員を動かす原動力になります。

リーダーは、どの方向にチームを導くのか、その方向性を指し示すことが大きな役割です。つまりそのためにはどの方向にどう進むべきなのかを考え、選択しなくてはなりません。この判断や決定を下す力がリーダーがまず養いたい能力と言えるでしょう。
ただし、リーダーは常に正しい方向を選択しなくてはならない・選択を誤ってはならない、という意味ではありません。選択した方向性が正しいのか評価をし、時には計画を変更したり修正を加えたり、一度決めたことでも立ち止まる・取り下げることも重要な仕事です。

このような能力を高めるためには、日々の意思決定のプロセスを振り返ってみることがおすすめです。仕事上のことはもちろん、プライベートでも私たちは常に意思決定を積み重ねて生活しています。なんとなく決めて行動しているようなことにも意識して目を向けてみると、自分の判断の軸が見えてきます。
今日は何を着て出かけるのか、3食何を食べるのか、買い物では何を買うのか、複数の選択肢の中から選び決定しているはずです。その無意識の選択には、他にどんな選択肢があったのか、どうしてその選択をしたのか、そもそもそれらを選択する目的はなんなのか、何か新しいアイデアは考えられないか、など意思決定のプロセスに向き合うことで、あなた自身の価値観や思考パターンが見えてきます
その結果、自分は慣例に即した判断を下すことが多いな(いつも同じものを選択しているな)、決断するのに時間がかかりすぎているな、他者の意見を判断の拠り所にしているな、という分析に繋がり、リーダーとして下す意思決定のプロセスの改善に役立てることができるでしょう。

②仕組みづくり

リーダーは、チームの力を最大限に引き出し、組織力向上のためにリーダーシップを発揮させるべき存在です。そのために職員が自分の力で成長するための仕組みを整えます。ここで言う仕組みとは、チームのメンバーが自分の正しい努力の方向性を見極め、権限委譲や成長していくための仕組みを指します。

保育園においては特に、リーダーという役割を担う方は「仕事ができる」方であることが多いでしょう。そのため、「自分がやった方が早い」と考える傾向も強くなります。確かに、経験の浅い職員やその仕事は初めて取り組むというような職員に任せるより、リーダー自身が処理した方が仕事のスピードも早く質も高いものになるでしょう。しかし、チーム全体で同じ目標を達成する、課題を解決するという視点で見た場合、その方法は好ましくありません。その仕事を経験できたはずの職員の成長機会を奪ってしまうことにもなりかねません。

リーダーは、自分が直接手を出したり動いたりしなくてもチーム(組織)の目標が達成される状態を作るのが仕事です。いちプレイヤーであった時との大きな違いはここでしょう。だからこそ、仕事を使ってチームのメンバーを成長させられるような仕組みを考えたり、チーム全体を動かすための仕組みづくりが重要な役割なのです。それによって職員一人ひとりの能力やチームワークが向上し、組織力向上へとつながります。

③動機づけ

方向性を示し成長の仕組みづくりを行っても、メンバーのやる気を高めることができなければ「仏作って魂入れず」の状態に陥ってしまいます。だからこそ、「人間への関心」を持ち、人間心理の知識を深めた上でコミュニケーションをとり、生産性・効率性の高い成果が得られる動機づけが必要になります。

リーダーとして成長するためには「仕事に勝る学習の場はない」のは明らかです。時には、今自分が踏ん張らないとこの仕事は失敗してしまうという修羅場の経験、とりわけ「ここぞ」という場面をきっかけに内面に飛躍が起こり、能力的・精神的な成長を遂げることができるのです。この「ひと皮剥ける経験」がリーダーシップを確立する鍵を握っているともいえます。しかし「場」を与えられれば誰でも同じ経験が積め、同じ成長を遂げられるというものではありません。リスクに怯まず問題提起をし、成果を上げた経験をしっかり消化できてこそ、自らの知識や見識の「引き出し」に加えていけるのです。

チームの成長、組織の成長を本気で考えることができたなら、チームの円満・協調・合意だけを求めるのではなく、時には厳しい態度で接したり諭すことが必要な場面にもリーダーとしての自覚を持って臨むことができるのです。

リーダーシップの4機能

要望性機能

リーダー「〇〇先生、提出期限が先週末までの書類、まだ提出がないようだけど…」
メンバー「すみません。今週はちょっとバタバタしていて書く時間が取れなかったので、週末に書いてこようと思うのですが…」

さて、この後リーダーは〇〇先生に対してどのような態度を示すべきでしょうか。「そう、それじゃ仕方ないわね」というだけでは少なくともリーダーとしての役割を十分に果たしているとはいえません。大事なことは「仕事には厳しく」あるということ。チームのメンバーに具体的な目標を示し、その達成に対しての努力をきちんとチェックしていくことです。

仕事を与えたら、プロセスを丁寧にチェックし、より質の高い仕事、成果に導くことがリーダーの役目。その人の持っている潜在的能力がいくら高くても、現場で発揮されていなければ意味がありません。仕事の評価をする際には、発揮能力で判断するべきだということも意識しましょう。本人がいくら「頑張りました」「努力しました」と言っても、リーダーの目から見ればまだ努力の余地があるかもしれません。

納得性の高い評価を示しながら、職員一人ひとりが持つ無限の可能性(隠された潜在的能力)を引き出すこともリーダーの役割であり、そのために少し背伸びした仕事を任せることや、持てる力を最大限に発揮できるように働きかけることが必要です。

時には、職員から反感を買うような要望を出さなければならない場面もあるでしょう。保育園のリーダーの中には「要望する」という機能に苦手意識を持つ人も多いですが、お互いが責任を持って仕事をする以上、要望する側も覚悟を持って要望する姿勢を示すことが大切です。

このような職員を成長に導くための態度・行動をリーダーシップにおける「要望性機能」といいます。

自分のリーダーとしての要望性をチェック

  • 職員に目標の達成や課題の解決を最後までやり遂げるよう求めている
  • 職員の仕事の質を厳しくチェックしている
  • 職員一人ひとりに今何をやるべきかを知らせている
  • 職員の力量からみて、ぎりぎりいっぱいの仕事を要求している
  • 職員を叱るべき時に叱っている

共感性機能

例えば、職員がやる気を無くした様子であれば、励ましたり勇気づけたり、人間関係や環境に気を配る。良い仕事をしたときは素直に褒めて失敗やミスには本人の気持ちを汲んで対応する。このように職員に対して共感的な態度を示すことを「共感性機能」といいます。保育園のリーダーには自然とできている方、得意な方が多いでしょう。

この「仲間の気持ちや立場に配慮を示しているかどうか」は要望性機能を円滑に作用させるためのものでもあります。

「士は己を知る者の為に死す」(自分の真価を認めてくれるような知遇を得れば、その人のために命も惜しまない)という故事があるように、自分を理解してくれる人のためには一生懸命に何かをやろうという気持ちは、多くの人が経験していることではないでしょうか。

つまり、共感性機能を発揮することで「仕事を任せる」「厳しくチェックする」という要望性機能が受け入れやすくなるということです。

自分のリーダーとしての共感性をチェック

  • 職員一人ひとりの意見や気持ちを大切にしている
  • 職員の悩みや不満を受け止めている
  • 職員の体の具合や気分がすぐれない様子に気づき配慮している
  • 職員一人ひとりの強みや弱みを把握している
  • 職場のチームワークがうまくいくよう気を配っている

通意性機能

リーダーはパイプ役だと称されるように「情報を共有する」という役割があります。具体的には、園全体の動き、保育方針や目標、他のクラスなどとの横の関係など、仕事を進めていく上で必要な情報を職員に伝え、意思疎通を図ることです。もちろんただ伝達すればいいというものではなく、伝えたことを相手に理解、納得させて初めてその機能が発揮されたことになります。そのためには、聞き手の知識の足りないところを補ったり、納得しやすい話し方を工夫する必要もあるでしょう。

これは全ての職員を仕事へ動機づける基盤を提供する働きでもあります。このような態度・行動を、意思疎通を図るという意味で「通意性機能」といいます。

自分のリーダーとしての通意性をチェック

  • 方針や計画の変更があった時、職員に納得のいくよう説明している
  • 職員に職場やチームの長期的な課題を示している
  • 職員に仕事の意義や取り組み方について繰り返し語っている
  • 職員への伝達や説明をわかりやすく行っている
  • 職員が仕事に必要な情報を手に入れる手助けをしている

信頼性機能

職員たちにリーダーとして信任されているかということです。リーダーは「この人がリーダーなら大丈夫だ」「この人にならついていきたい、力になりたい」と思わせるような信頼感を築いていかねばなりません。職場において、リーダーがリーダーシップを発揮していく際の行動は、基本的に「信頼性機能」が前提になっています。信頼関係が築けていなければ他の機能も発揮されないくらい、重要な機能です。

この機能を果たすため必要なのは、職務についての高い知識と技術、職員に対する指導・評価を適切に行う能力でしょう。皆さん自身、どんなリーダーなら信頼して、納得して、ついていけるかを想像すれば自ずとわかるはずです。

自分のリーダーとしての信頼性をチェック

  • 職員の手本となっている
  • 自分の決断は職員から信頼されている
  • いったん決定したことは実行している
  • 率先して新しいことに挑戦している
  • 誰にでも公平な態度で接している

リーダーシップの発揮の仕方

リーダーが役割としてのマネジメントを遂行していくためには、リーダーシップを発揮していくことが必要になります。それは、組織が人間によって構成され、人々の協力を通じて組織の目標を達成するからに他ならないからであり、リーダーシップという名の「対人影響力」が役割遂行の基本条件だからです。

リーダーシップの定義「組織(職場)の目標達成に向けて職員を意欲的に動かす影響力」について考えてみましょう。

動かし方(スタイル)

力づくで強引に動かす

持ち味を活かし、主体的に動かす

動かすエネルギー

地位・肩書き
知識・技術
人格・人柄・魅力

「北風と太陽」の童話のように、力づくで強引に動かすことは、周囲の納得性を得られるとは限らず、場合によっては拒絶されかねません。もしそれが当たり前のスタイルだとしたら、そのリーダーのもとで動く職員は次第に受動的になっていってしまうでしょう。災害などの緊急事態以外は、職員の持ち味を活かし、主体的に考えさせ動かすことが望まれます。

また動かすエネルギーという視点で考えた時には、地位・肩書きは自覚するだけで良いもので、それを印籠のように掲げて動かすことは好ましくありません。知識・技術はできる・知っている状態にしておくことは重要で、場合によっては助言・模範として披露することはあっても、大いに発揮したいのは人格・人柄・魅力なのです。

リーダーは単なる役割に過ぎず、人の価値を決めるものでもなければ上下を決めるものでもありません。役割であるリーダーシップを発揮するのに、職員に示すスタイルやエネルギーを履き違えないよう、何が土台にあるべきか理解する必要があります。

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