職員の主体的な成長を促進するには|人材育成をゲームにする!?ゲーミフィケーションの考え方

投稿日:2023年8月25日

目次

イヤイヤ動くのか。ワクワクしながら取り組むか

「ゲーミフィケーション」という言葉を聞いたことがありますか?

ゲーミフィケーションとは、テレビゲームなどの設計デザインに使われる様々な要素を、ゲーム以外の分野に応用することです。
今回は、人材育成にゲーミフィケーションを取り入れるためのヒントについて解説します。人材育成にゲームなんて参考にならないと思われるかも知れませんが、もう少しお付き合いください。

人材育成にゲーミフィケーションを取り入れる一番の目的は、ズバリ職員のモチベーションアップです。

想像してみてください。
苦手な勉強はなかなか手をつけないし続かない子どもが、テレビゲームであれば食事することすら忘れて何時間でも夢中でやっている。家庭ではよく見られる場面です。
私たちは、その理由がなぜなのかを考えなくても、ゲームが「面白いから」だということを感覚で知っています。

現代のテレビゲームなどは実に細かいところまで考えて設計されていて、遊ぶ人がつい夢中になってしまう様々な要素を取り入れてデザインされています。
その「夢中になる」要素を、ゲーム以外の分野にも応用したら上手くいくのではないか、というのがゲーミフィケーションの基本的な考え方です。

日常生活にもあふれている様々なゲーミフィケーション的要素

さて、本題に入る前に、私たちが普段の生活で経験しているゲーム的な要素についても触れておきます。

例えば街で買い物を楽しむときにもらえる「ポイント」は、「貯める」ことを楽しんでもらうためのマーケティングにおけるゲーム的要素です。
ポイントを貯めることにモチベーションを刺激されるという人にとっては、次もそのお店を利用する動機になります。

SNSの自分の投稿に、誰かから「いいね!」をもらったとしましょう。
そのことで自分を承認してもらえた、誰かと繋がっている、という感覚を得ることができます。それが動機となって、また次の投稿をしよう、情報発信したいという意欲に繋がります。

もちろん何に対して価値を感じるか、どんなことでモチベーションを刺激されるかは人によって違いますから、同じことをすれば全ての人が同じ行動をとるとは限りません。

また、ショッピングやSNSともかく、仕事や勉強となれば楽しいことばかりではないのも事実です。とはいえ、仕方なくイヤイヤやるよりは、楽しんで取り組めた方が、力も湧いてくるし、良い成果に繋がるように思います。
それだけではく、大人も子どもも様々なことに意欲的に取り組んでいる保育園というのは、職場の雰囲気も変わってくるでしょう。

職員のタイプに合わせたモチベーションアップの工夫を考える

いまこのコラムを読んでいる皆さんが、普段ゲームをされるかどうかはわかりませんが、ゲームでよく出てくる要素に「レベルアップ」「クエスト」「ランキング」「アイテム」「スキルツリー」…といったものがあります。
「アイテム」を全て収集するという行為に面白いと価値を感じる人もいれば、自分が「レベルアップ」して強くなることに達成感を感じる人もいます。

ゲーミフィケーションを取り入れる上で理解しておきたいのは、どのような要素がモチベーションを刺激するのかは人によって違うということです。
実際のゲームでは複数の要素を組み合わせて取り入れることで、様々なタイプの人が楽しめるような工夫をしています。
十人十色、百人百様と言われるように、保育園の職員も誰一人として同じ人格は存在しません。人は多様な存在であり、一人ひとりのやる気スイッチもみな違うはずです。

ゲームプレイヤーの分類|リチャード・バートル

ここで、以前から知られている、リチャード・バートルのゲームプレイヤーの4分類を紹介しておきます。
この理論は、ゲームプレーヤーを4つのタイプに分け、それぞれがどのようなことにモチベーションを発揮するのかを説明しています。
1.アチーバー

達成者です。
レベルアップすることやステータスを上げることへの関心が高く、そしてそのことを周りに知らせることを望みます。
誰よりも先に目標達成し、そのことを表現することにモチベーションを発揮する達成意欲の高いタイプだと言えます。


2.エクスプローラー

探検家です。
新しい世界を探検したり、隠された秘密の場所を見つけたりすることを好むタイプ。
レベルアップやミッションをクリアすることはさほど重視せず、新しいことを見たり聞いたりすることがモチベーションの源です。自分の好奇心を満たすことが重要で目標達成はあまり気にしないため、本来のミッションそっちのけで探険を楽しんだりします。


3.ソーシャライザー

社交家です。
全体の80%のプレーヤーはこのタイプです。
他のプレイヤーと互いに関わりあうことを好み、プレイヤー同士が協力してクエストに取り組んだりするような体験に魅力を感じます。
個人で取り組むよりも複数で協力して大きなことを成し遂げることにも喜びを感じます。


4.キラー

刺激的な表現ですが、一部のプレイヤーはキラータイプです。
競争心が強く、他者に勝つこと、一番になることを望みます。
一見、達成者と似ていますが、異なるのは達成することより他の人に勝つことを望むところです。ミッションを進めることより、誰が強いかを証明したがります。
もちろん、類似も含めたこのような分類は科学的な根拠に基づいているわけではありませんし、そもそも論として人の特性をたった4つに分類して説明することはできません。しかしながら、ある程度分けてみることで、このようなタイプにはどうアプローチすればいいのだろうと考える糸口になるのです。

こうして見るとゲームデザインはとても奥深く、心理学的な要素まで考えて設計されていることがわかります。

保育園の人材育成においても、様々な興味関心を持つ一人ひとりの職員の動機づけは重要なテーマです。
だとすれば、キャリアパスや研修制度、人事評価にいたるまで、職員の主体的な行動を促進するための工夫してみることが必要になります。

保育士の人材育成とゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションを保育園の人材育成に活用し、保育士の成長やモチベーション向上に繋げることができたらどうでしょう?
「やらされる」のではなく、「やりたい」という気持ちで主体的に取り組んでもらえるとしたらどうでしょう?

保育園のキャリアパスや人事制度は、どうしても規則やルールのような考えになりがちです。
しかし、本来の目的は職員一人一人のスキルアップであり、その先には保育の質の向上がゴールとして存在するはずです。
保育士一人一人がスキルアップに前向きに取り組むことができ、学びが面白いと思える環境整備が大切ではないでしょうか。
だとしたら、ゲーミフィケーションの考え方はとても役に立つはずです。
このようなゲーミフィケーションのアプローチは若い世代に限って効果があるのではと思われるかも知れません。
実は、人材開発におけるゲーミフィケーション活用調査によると、「年上のスタッフが若いスタッフよりもゲーム的要素に動機づけられる」という結果が出ています。
世代にかかわらず面白さは人の行動を促進するものです。

保育士の人材育成をゲーム化するためのポイント

さいごに、ゲーミフィケーションを保育園の人事制度やキャリアパスに取り入れるためのポイントを記します。

1.ゴールが明確

ゴールが見えないとどこを目指したらいいのかがわからなくなります。魅力的なゴールを示すことは、そこにたどり着きたいというモチベーションを高めます。
また、最終的なゴールだけでなく、中間ゴールを設けるなど、プロセスも楽しめる工夫があるとモチベーションが持続します。いくつかのサブクエストをクリアしながら、最終ボスに挑むシナリオをイメージするとわかりやすいかもしれません。

2.主体的に取り組める

「やらされる」のではなく、職員自身が主体的に取り組めることが大切です。
職員が自分で考える余地、選択の余地を残し、人によって異なる興味関心やモチベーションを複数の角度から刺激する工夫をすることです。「やりたい」「頑張りたい」という自分の内側から沸き起こる動機にかなうものはありません。
そのような職員の主体的な行動をサポートするのも上司の役割です。

3.進捗が見える

職員自身が、今どこまで進んだのかを目で見てわかることが大切です。保育園独自のポイント制、グラフ化、星取り表などの仕掛けも面白そうです。
進捗が見えると、ここまで進んだという満足感が得られたり、「次はこうしたい」というその先の道筋を自分で考えるという主体的な行動につながります。

4.フィードバックがある

職員自身が取り組んだことや結果に対して、その都度フィードバックが得られることが大切です。そのことで承認欲求が満たされたり、達成感を感じたりすることができます。
表彰、周囲からの承認、などの心理的報酬が得られる工夫を考えます。

ゲーミフィケーションを上手に取り入れて、職員のモチベーションアップを

先にも述べた通り、キャリアパスや評価制度は現場から見ると規則やルールのような見え方になりがちです。
もちろんそのような側面はあるのですが、人材育成とその先にある理想の保育の実現を考えれば職員に意欲的にスキルアップに取り組んでもらうことが必要です。そのためにゲーミフィケーションは役に立ちます。
よく考えられ、上手くデザインされたゲームは多くの人が長く楽しめます。
まずは何かひとつでも、ついつい夢中になってしまうような職員が「面白がる」仕掛けを考えて取り入れてみてはどうでしょうか。
できるところから人材育成の「ゲーム化」を考えてみてください。
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