【保育園版】マネジメントの基礎知識|研修の意義と種類|私たちの園の保育士が受けたい研修とは

保育士の研修,意義,目的,種類

投稿日:2022年9月7日

以前の記事で人材育成の4つの方法についてお話ししましたが、今回はその中でもOff-JTの代表である研修について取り上げます。

目次

保育士は何のために研修を受けるのか

保育園が保育の質を確保するためには、優秀な人材が必要です。最初から園の方針を理解して自ら考え行動できる優秀な人材が採用できるのであれば問題はありませんが、現実は人手不足のために応募があればまず採用するという園も多いでしょう。ということは、入職してから園で優秀な人材に育てるということです。実務的な仕事を覚えるだけであればOJTで十分かもしれませんが、職員にスキルアップしながらそれを保育に活かしてほしいと望むのであれば、育成のための研修が必要なのです。仕事を通して学ぶOJTとOFF-JT研修を織り交ぜることで、組織の一員としての自覚と個人の成長が期待できます。職員一人ひとりの成長が、園の成長につながるのは間違いありません。

また、研修を行う意義を職員目線で考えてみると、自己成長の一言に尽きます。普段の仕事の中では得られない最新の知識や新しい視点を得たり、これまでの実践を裏付ける根拠を学んだりすることで、世界が広がり考え方や価値観も柔軟になることが期待できるでしょう。自身の興味関心と園で求める役割や能力の方向性が一致していれば、より主体的な学びと実践につながりモチベーションの向上にもなります。

ここで、自己成長のための学びなら自己啓発として個人個人が学べば良い、園には人手的にも時間的にも余裕がない、という管理者側の意見について。一般企業では、提供する商品を日々改善し磨いています。同じ商品でもより使いやすく・よりデザインを良く・より安くなど。それは立派な仕事です。商品を持たない保育園においては、提供する保育の質が商品といえますが、言い換えれば職員一人ひとりが商品といえるでしょう。それを磨くのは組織の仕事です。もちろん、学ぶということ自体は職員本人が行いますが、組織としては学びの機会や学びやすい環境を整えることが必要です。

保育園で実施する研修の種類

実施形式の種類

一言で研修と言っても、様々な種類があります。各園の状況に合わせて活用しやすい(受講しやすい)スタイルを選ぶことは大切ですが、学びたい内容によって学び方を変えることも必要です。それぞれの特徴を理解し、自園に合っている且つ効果的に学べる方法を選択しましょう。

集合研修

集合研修は、受講生が同じ時間・同じ場所に集まって学ぶ研修です。
コロナ禍以前には保育業界の研修といえばこの形が一番スタンダートなスタイルだったのではないでしょうか。講師と受講生が対面で直接やりとりができるのでコミュニケーションが取りやすく、程よい緊張感があるという特徴があります。また、物理的に園を離れるので職員の気分転換になり、学びに集中しやすい環境だといえるでしょう。特に、ロールプレイングなどの実技的な研修は、その場で実践して講師や他の受講生からフィードバックをもらえるため、集合研修が向いています。

座学・講義型

学校の授業のように、一方的に講師が説明し受講生が聞いて学ぶスタイルです。多くの知識をスピーディにインプットするための研修に向いており、一人の講師に対して多くの受講生が一度に受講することができます。ただし、聞くだけ、で終わってしまうとインプットした知識が記憶に残りづらいため、研修資料をもとに復習をしたり、人に説明する・実践するなどのアウトプットをしたりして吸収した知識を活かすという視点が重要になります。また、本人が”園に受講させられている”という受け身の姿勢で参加すると期待する学習効果が得られません。研修に参加する目的を本人が理解した上で受講しましょう。

体験・参加型

グループワーク、ロールプレイングなどを含む、受講者がその場で実践して学びを深めるスタイルです。講師や他の受講生から新しい視点を得たり、意識していなかった自分の思考や癖などがわかったりするなど、気づきを伴うため記憶に残りやすく、受講後の変化につながりやすいと言われています。同じ保育士でも当然ながら経験してきたことは異なり、自分が経験していないことも他者の経験の話を聞くことで疑似体験ができ、実践に応用できるようになります。座学・講義型に比べると一度に受講できる人数は限られますが、学びの密度は濃いスタイルだといえるでしょう。


余談ですが、弊社の経験上、保育士の皆さんは「人見知りで緊張しいだから体験・参加型は苦手」と仰って参加する方が少なくないのですが、そういう方ほど「楽しかった」「意外と向いているかも」という感想を持たれる場合が多いです。食わず嫌いのようなものでしょうか。

オンライン研修

一般的に、オンライン研修といえばリアルタイムで実施されるもののことを指しますが、保育業界ではeラーニングなどの動画視聴型も含めてオンライン研修と呼ばれることが多いようです。同じ言葉を使っていても同じものを指しているとは限らない、というのはよくあることですが、ここではオンライン研修を双方向型と動画視聴型とに分けて説明します。

オンライン研修は、移動する必要がなく、遠方で開催されるものにも保育園にいながら受講することができます。シフトや家庭の事情で出張を伴う集合研修には参加できないという職員も業務時間内の受講を調整できる点や、出張費などのコストが削減できる点は保育園にとっても大きなメリットです。

双方向型

双方向型がいわゆるオンライン研修です。同じ場所に集まることなくオンライン上で参加するものです。ZoomなどのWeb会議ツールを使用して、決まった日時にパソコンなどの端末から受講します。
チャットや投票などを使って文字でコミュニケーションを取ったり、受講者もカメラとマイクをオンにして発言したり、少人数のグループに分かれて討議をすることもあります。集合研修ほどではないにしても、講師や他園の職員と交流しながら学ぶ参加型の研修です。研修中に生じた疑問もその場で講師に確認ができます。

デメリットとしては、園のインターネット環境によって回線が重くて繋がりづらかったり、途中で落ちてしまったりしすることがあります。園内で受講する時は場所の問題もあります。研修中に呼び出されたり、そもそも個室がなくて集中して聞ける環境じゃなかったりすると、学習効果も半減するでしょう。これらを解決するには、まずオンライン研修の意義について共通認識を図り、ふさわしい環境づくりを組織として行うことです。保育の間の「ながら学習」にならないようにしましょう。

動画視聴型

eラーニングやオンデマンドなど、予め録画された動画を視聴するものです。基本的に24時間いつでもどこでもアクセスできるので職員の都合に合わせて自主的に学習する場合に向いています。
動画なので途中で一時停止したり、巻き戻したり、再度視聴することも可能なので、繰り返し学習するような知識をインプットする内容の研修に適していると言えるでしょう。

デメリットとしては、一方的な視聴のため、内容に不明点が出てもその場で質問することができないことです。自分の中で完結する学び方のため、誤った認識や偏った知識を持ってしまったり、技術や知識の習得に個人差が出やすかったりします。さらに、いつでもどこでも視聴できるため、園側で誰がいつどの学習を終えたのかが把握しづらいという面もあります。これらを解決するには、受講管理ができるシステムを取り入れたり、決められた期間内に視聴することを促して研修報告を提出させたり、動画視聴を前提とした園内での会議や研修の場を設けるなど、取り組み方に工夫が必要です。

対象・目的による種類

保育園では園内の全職員研修が重視される傾向にあります。もちろんそれが必要な内容の学びであれば良いですが、なんでも全職員一斉に学ぶことを目的とすると期待する学習効果は得られません。外部の集合研修においても、シフト的に行けそうな職員が行く、という場合も少なくないようですが、本来なら学びの対象と目的に合わせて研修を選ぶべきでしょう。

階層別

新人や中堅、リーダー等に分けてその階層の時に必要な学びを考え、ふさわしいタイミングでふさわしい学習機会が持てるように設定すると効果的です。いくつか例を挙げましょう。

新人職員向け

ビジネスマナー研修
挨拶や身だしなみ、言葉遣いや態度など、社会人としての基礎を学ぶ研修です。研修を通して学生から社会人へ意識を転換してもらう効果が期待できます。園内でビジネスマナーを教えることももちろん可能ですが、実践的な内容に偏ってしまったり、人によって教え方の癖があったりするため、できれば一般的な基礎は外部で学ぶことをお勧めします。ただし、もし一般企業のビジネスマナー研修に参加する場合には、保育園と違う部分も多々ありますので研修後のフォローを欠かさないようにしましょう。

マインド系研修
仕事に臨む姿勢やセルフマネジメントについて学ぶ研修です。マナー研修の内容に含まれていることもありますが、社会人としての精神面での姿勢や思考を「知識」として学ぶことによって、自己理解や他者理解につながります。また、新人職員は慣れない仕事や初めてのできごとばかりでストレスが大きいものです。ストレスへの向き合い方や耐性をつけられるような考え方などを学べる研修もおすすめです。

コミュニケーション系研修
社会人にふさわしいコミュニケーションとは何か、チームワークや協働などについて学ぶ研修です。コミュニケーション力は新人に限らず誰しもが磨いていきたい能力ですが学ぶ内容も広いので、まず新人に覚えてもらいたいコミュニケーションは何かに絞って研修を設定しましょう。例えば、仕事におけるコミュニケーションの基本である「報連相」などです。マナー研修と重複することもあると思いますが、職場ではどんなコミュニケーションを取るのが望ましいのかを新人のうちに理解することは、職員間においても保護者対応においても、全ての基礎となるでしょう。

中堅職員向け

業務遂行力に関わる研修
日々の仕事を進める上で必要な能力を向上させるための研修です。効率よく仕事を進めるための段取り力やタイムマネジメント、論理的思考に基づく判断力など、主体的に仕事に取り組むための考え方や技術について学びます。経験を積んできている中堅職員という立場だからこそ、改めて自分の仕事の仕方を振り返ることで、より良い保育・仕事につなげられるでしょう。園としても一番多い層なので、中堅職員が主体的に動けることは園全体への影響力も大きいでしょう。

フォロワーシップ研修
フォロワーシップとは、チームの仕事がうまくいくように、リーダーを補佐したりチームの中で率先して行動する能力のことです。リーダーも含めた、チームのメンバー全員に必要な力です。リーダーの意図を汲み計画を具体的に仕事に落とし込むことはもちろん、チーム内のコミュニケーションを円滑にするなどフォロワーに求められるものは多岐にわたります。チームのメンバー全員がフォロワーシップを発揮できるのが良いチームです。

メンター研修
主に新任保育士に対してですが、メンター制度を取り入れる園が増えています。ストレス過多な仕事において、精神面をサポートしてくれるメンターの存在が注目されているのです。メンター研修では、相手に寄り添う力やコミュニケーション力、傾聴力などを心理学などの知識を取り入れながら学びます。それはメンターだけでなく保育者全般に求められる能力です。

クレーム対応研修
保護者や地域の方からのクレームは保育園にとって業務改善につながるチャンスでもあります。苦情解決窓口は主任という園は多いですが、初期対応はどの職員でもできなくてはなりません。クレームへの心構えや考え方を学んでもらった上で、傾聴力や問題解決能力などを高めることはクレーム以外の普段の保護者対応にもつながるものです。

リーダー職員向け

リーダー研修
保育士として優秀だからといっていきなりリーダーになれるわけではありません。保育士の能力とリーダーの能力は全くの別物だからです。チームをまとめる力、園長や主任などの指示をチームに下ろす力、これらはチームワークが不可欠な保育という仕事において重要な能力です。経験することももちろん大切ですが、リーダーとしての役割自覚や基本的な知識を持った上でリーダーを担うことができれば、同じ経験でも得られるものは全く違うでしょう。

マネジメント研修
リーダーという役割を担う職員の大切な役割の一つが後輩の指導・育成です。保育はチームで行う仕事。チームがうまく回るために、より良い保育を誰もができるために、後輩の力を伸ばし仕事を任せるスキルが必要です。保育と人材育成は似ていますが、大人相手となるとできないことも多いもの。体系立てて学ぶことができれば、後輩育成だけでなく普段のコミュニケーション、上司の立場や意図の理解にも繋がるほか、保育に活かせることも多いでしょう。

管理者向け

コーチング研修
ティーチングが相手を教え導くことなら、コーチングとは対話を通して相手の中にある答えを引き出すことです。管理者は、職員一人ひとりの気持ちや考えを理解しモチベーションを保つのも大切な仕事です。そして職員に主体的であってほしいと思っているはずです。そこで活用できるのがコーチングの技術です。コーチングはコミュニケーション技術の一つなので訓練次第で誰もが上手に扱えるようになります。考え方を身につけるだけでも、普段のコミュニケーションが変わります。

メンタルヘルスケア研修
メンタルヘルス(心の健康)は活力を持って仕事をするために重要なものです。管理者には、職員一人ひとりの心身の状態を気に掛ける責務があります。保育士に元気がなければ子どもたちにもそれは伝わってしまうでしょう。かと言って、メンタルヘルスは目に見える変化だけではありません。ケアに関する知識と組織としてできる取り組みについて理解し、職員が安心して働ける職場づくりを目指しましょう。

職種別

保育園では、保育士以外にも栄養士や看護師、事務職等さまざまな専門性を持った職員が働いています。職種別に専門性を高める学びを用意する必要があります。また、自園の保育の特色に合わせた技術や知識についても、園内だけの研鑽だけでなく、外部で学んでくることも重要です。

キャリアアップ研修

保育業界には、キャリアアップ研修制度があります。専門別に8分野用意されていますので、まずはこの研修を受講することから始めましょう。

乳児保育
幼児教育
障害児保育
食育・アレルギー対応
保健衛生・安全対策
保護者支援・子育て支援
マネジメント
保育実践

全職員研修

仕事における能力には、どの組織でも通用する一般的な能力とその組織でしか通用しない独自の能力があります。後者の能力を身につけたり、自園の考え方を共有するような内容の研修が全職員研修には向いています。また、職員同士のコミュニケーションを活性化させたり、チームワークを強化したりしたいという目的にも適しています。
逆に、「この知識は全員で知っておきたいからみんなで聞きたい」という一方的な講義や「せっかく園内でやるんだから一部じゃなく全員でやったほうが何となく良いと思う」といった曖昧な動機の全職員研修は思ったような効果が得られないことが多いので注意しましょう。全職員で集まる意義のある内容の研修を企画したいものです。

研修を活用して「私たちの園」の人材育成を

どの仕事もそうですが、保育士も養成校を卒業することが保育の学びのゴールではありません。むしろそこがスタートラインです。子どもたちの成長を支援するからには、自分自身も成長させ続けなければならないのが保育士という仕事です。子どもの安全さえ守れば、ルーティーンワークで良いと考えるのか、常に改善と挑戦をし続けるのか、その姿勢と環境は間違いなく子どもたちに影響を与えるでしょう。そして後者を求めるのであれば、それは園という組織全体に課せられた課題です。

子どもたちが可能性に満ちた存在であるのと同様に、保育にも、それを提供する保育士にも、無限の可能性があります。保育園の経営者・管理者にとって、職員一人ひとりの可能性を信じ成長を支援することは重要な責務だといえます。人材育成の一つとして有効なOff-JTについて、研修を受ける目的と対象を明確にし、それらはどのように学ぶのが効果的かを考え研修を企画しましょう。

キャリアアップ研修などのどの園も受けている研修はもちろん大切ですが、それだけでは普通の園です。選ばれる園づくりや保育の質の向上を目指すのあれば、私たちの園の保育者に必要なスキルや知識を明確にする、私たちの園の職員に受けさせたい研修を見つける、職員の育成に力を入れたプラスワンの取り組みではないでしょうか。

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