新人保育士をどう指導するべきか|保育園で取り組みたい新人育成3つの柱

投稿日:2022年4月20日

人材不足が常の課題である保育園では、新人保育士は貴重な存在です。せっかく縁があって共に働くのですから、長く勤めて欲しいですよね。

今回は、学生から社会人になる1年目の新人保育士の育成について施設長はどう関わるべきか、園全体として何をすべきかという視点で考えていきます。

目次

最初の1年が新人保育士のこの先を左右する

その人にとっての仕事観は、1年目に土台が作られます。
共に働く先輩保育士の姿によって仕事に向き合う基本姿勢を学び、保育園の風土に影響を受けます。
まっさらなキャンバスである新人保育士にだんだん園のカラーが現れてきます。新人保育士の1年後の姿を見れば、その園がどんな園なのかわかるともいえます。
新人保育士が2年後3年後に自立・自律して仕事ができるかどうかは、最初の1年にかかっていると言っても過言ではありません。

【1】新人保育士と園の信頼関係を築く

1年目の関わり方は、信頼関係を築くことに8割の力を注いでください。大げさに聞こえるかもしれませんがそれくらい重要なことです。

子どもたちの姿と重ね合わせれば想像しやすいかもしれませんね。園に通い始めた子どもは、周りをよく観察しています。ここは自分にとって安全な場所か、この人たちは安心できる人たちか、感じ取ろうとします。最初は自分からは輪に入ってこないおとなしい印象だった子が数日で輪の中心になるなど、印象が180度変わったというような経験はみなさんお持ちでしょう。自分を出せるようになる、それによって人は積極的にも挑戦的にもなれるのです。

新人保育士に主体性を望むのであれば、信頼関係が重要な鍵を握るのは間違いありません。

知る|新人保育士が育った背景と価値観

知る、ということは相手に興味・関心を持って接するというマネジメントの大原則を指します。
保育でも、子ども一人ひとりのことを知ることから始まりますよね。

新人保育士を知るにあたってまず理解しておきたいのは「時代の変化」と「価値観の多様化」です。
これは単なるジェネレーションギャップではなく、常識や当たり前など、教える側が正しいと信じていることすらズレがあるということです。そしてそれは良い悪い、正しい間違っているという問題ではなく、生きてきた環境や経験が10年前、20年前とは大きく違うということを示しています。

子どもの頃からインターネットがあるのが当たり前で、わからないことはすぐ調べればよかった今の世代は「失敗してもいいからやってみよう」という考えよりは「失敗しないように調べよう、準備しよう」という考えの方が身近です。弱みを克服するよりも強みを伸ばすことを支援されてきた世代ですから、叱られるという経験が少なく叱った経験もほとんどないでしょう。保育士養成校で習ってきた「保育の知識」すら、違うこともあり得ます。

ですから、「これくらいはできて当たり前だろう」「普通に考えればわかるだろう」という憶測で関わるのではなく新人保育士本人がどう考えてどう感じるのかを知ることが大切です。そのためには、これまでの経験などを聞いてみることをお勧めします。この時、一方的な質問攻めにするのではなく、自己開示をしながら互いに知り合うことを意識しましょう。

新人保育士に聞きたい質問例

  • どんなことに関心があるのか(趣味) 
  •  なぜ保育士になろうと思ったのか(きっかけ) 
  •  どんな時にやりがいを感じるのか、どんな保育士になりたいのか(価値観) 
  •  どんな言葉で勇気づけられ、どう背中を押せば一歩踏み出せるのか(動機づけ)

聴く|新人保育士の考えと気持ちを受け止める

新人保育士とコミュニケーションを取る中で大切なのは話すことよりも聴くことです。

これを意識せずに関わると、経験豊富な先輩保育士ほどついアドバイスをしてしまうものです。もちろん仕事の中ではアドバイスが必要な場面もありますが、信頼関係を築くコミュニケーションを取るならまずは聴くことに集中しましょう。
新人保育士の考えや気持ちを聴ききった上で、相手が助言を必要としているなら「アドバイスしてもいいかな」と自分の意見を伝えてください。「この人は私の話を聴いてくれる」と新人保育士が感じることができれば、小さなことでも質問や相談をしてくれるようになります。

しかし、子どもたちが優先の保育現場では、日常保育の最中に新人保育士の話を聴くのは難しいことだと思います。この「聴く」時間は普段のコミュニケーションとは別に設けるようにしましょう。
例えば、
・1日の保育の終わりに5分だけ時間を設け今日の振り返りをする(今日の疑問は今日のうちに)
・1ヶ月に1回30分程度の面談時間を設け、じっくり話を聴く機会にする
ここで大切なのは、何かの合間や作業をしながらの話ではなく、新人保育士本人の話を聴くためだけの時間としてセッティングすることです。

新人保育士の話を「聴ける」人になるために、普段の自分自身のコミュニケーションの癖を知っておくことも重要です。
相手に「聴いてもらえない」という印象を与える癖をチェックしましょう。

気をつけたい”聴くときの癖”チェック
□ 尋ねたいことや言いたいことがあると、相手の話に割り込む
□ 会話中の沈黙が苦手で、何か話さなきゃと思う
□ 最後まで聞かずにわかった気になって、相手の話を遮ることがある
□ すぐに「私だったら」と意見したり自分の体験談を持ち出したりする
□ 次に話すことを考えながら聞いていることが多い

自分に当てはまるものがあったという方は「いま癖が出ているな…」と気づいて意識するだけでも違います。
自分の振る舞いが相手にどんな印象を与えるのか、客観的に見てみましょう。

承認する|新人保育士は褒めるより認める

「新人保育士はとにかく褒めて伸ばすようにしている」
「辞めてしまうのではと不安で新人保育士を叱れない」
新人育成について園長先生にお聞きすると、返ってくるワードです。先述の新人保育士の育った背景を考えると、新人保育士は”褒められ慣れていて叱られ慣れていない”のでそうなるのも頷けますね。それも踏まえて、褒めるに似ていますが少し違う「認める」働きかけをお勧めします。

承認欲求は人間が誰しも持っている潜在的な欲求です。SNSなどの影響もあり、若い世代ほど承認欲求が強い傾向にあると言われています。承認には大きく分けて3種類あります。どの承認も必要なものなので、不足している部分があれば意識して増やしてみましょう。

〇結果承認:できた、やり遂げたことを認める
〇事実承認:プロセス・行動・意識について(結果に関わらず)認める
〇存在承認:その人の存在そのものを認める

このうち、結果承認の一部が褒めることだといえるでしょう。そして「叱る」ことも承認の一部です。子どもたちに対してもそうですが、「叱る」ことは決して相手を否定することでも懲らしめることでもありません。「それを伝えることによって、相手の行動を改善させたいという目的」がある訳なので、改善を求めることが重要です。

つまり、叱る=リクエスト(要求)です。そう考えれば、叱ることへのハードルは低くなりませんか?そして叱る基準を、園のルールや価値観をもとにすれば、新人保育士にも伝わりやすく納得性も高くなります。
「私たちの園ではこうしてるからそれに合わせてほしい」 
「私たちの園ではこう考えているので、こういう場合はこういう行動の方が好ましい」 
叱り方の注意として、感情的になったり理由や説明もなく「とにかくダメ」と伝えたりすると、新人保育士にはただ”怒られた…”という印象だけが残ってしまいます。

叱るのと怒るのとでは相手への伝わり方が違う、ということは、普段の保育の中で子どもたちにも言えることではないでしょうか。新人保育士と日頃からコミュニケーションを図り信頼関係を築けていれば、叱ってくれることはむしろありがたい指導と感じるはずです。

最初のうちは存在承認を意識的に増やす

入職から1ヶ月くらい経つと、新人保育士が陥りがちな思考があります。
1ヶ月は慣れない仕事にがむしゃらに取り組み、体力的にも疲れ、休日には一日中寝て過ごしてしまうことも少なくないでしょう。そして大型連休を迎えて、冷静に考える時間ができるとこのようなことを考えてしまいます。

「私は先輩保育士の足を引っ張っているのではないだろうか…」
「仕事ができない新人保育士だと思われているのではないか…」
「私はこの保育園に必要とされていないのではないだろうか…」

その結果、私に保育士は向いていない、と退職が頭をよぎるようになるのです。先輩保育士を始めとして保育園の誰も、新人保育士に対してこのようなことを思ってはいませんが、本人にとっては大問題です。だからこそ、新人保育士の存在そのものを認める声がけが重要です。

「手伝ってくれて助かった」「先生に頼んでよかった」「あなたがいると雰囲気が明るくなるね」と普段はわざわざ言葉にしないこともダイレクトに本人に伝えましょう。「今日なんだか元気がないね、何かあった?」と声をかけるだけで救われる新人保育士がたくさんいます。

他者承認によって承認欲求が満たされると自己承認もできるようになり、新人保育士の自己肯定感も高まります。そしてそれが、自分はこの保育園でやっていける、この保育園でなら頑張れる、という園に対する信頼感を高めることにもつながります。

信頼関係を損ねるNGワード

  •  過去を持ち出す  …  前から言ってるけど、 何度も言ってるけど
  •  責める言葉    …  どうしてそうなるの? 、だから言ったでしょ
  •  決めつけ言葉   …  いつもそうだよね、あなたってこうだよね
  •  程度言葉     …  ちゃんとして、しっかりやって
  •  他人のせいにする …  みんなそう言ってる、他のクラスの先生に怒られるよ
  •  人と比較する   …  同期のA先生はできてるよ、私が新人の頃はこれくらいできた

子どもたちに対して使いたくない言葉は、新人保育士に対しても使いたくないものです。

【2】新人保育士の指導担当者をサポートする

みなさんの園では、新人保育士の育成、指導の担当者をどのように決めていますか?同じクラスを担当する先生に任せるという保育園が圧倒的に多いのではないでしょうか。では、その先生がお休みの時は誰が担当するか決まっていますか?

新人保育士にとって、まず誰に頼ればいいのか明確にわかっていることは心強いものです。もし、「なんとなくこの人」と決まってはいるが、明確に任命していないという場合にはすぐに任命をしましょう。ちなみに任命するというのは「新人保育士をお願いね」とただ頼むだけではありません。

・新人保育士にとってどんな存在として関わってほしいのか(期待する姿)
・具体的に何を指導してほしいのか(指導内容)
・困った時には誰に相談すれば良いのか(サポート体制)

これらを合わせて伝えることが必要です。

新人育成の担当者を孤独にさせない

新人保育士の育成を任されるくらいですから、その職員は安定して仕事を進められて、周囲から頼りにされる業務負荷の大きい人なのではないでしょうか。新人の育成は手間がかかる割に成果が見えづらいため、「自分には荷が重い」「他にもたくさん仕事があるのに…」と思ってもおかしくないはずです。
そんな中でも、育成という仕事の優先順位を上げて取り組むには、相当の覚悟と意味付けが必要となるでしょう。

だからこそ、新人育成は園全体で取り組むべき重要な業務であることを全ての職員が認識しておく必要があります。
そもそも指導担当者は一人でなくとも構いません。日常保育に一緒に取り組む主担当者、主担当者不在時に代わりに指導をする副担当者、メンタルケアを担うメンターなど、役割に応じて新人保育士に関わる職員を複数任命しておくことをお勧めします。

OJT(On-the Job-Training)とは現場での実践を通した指導のことを指しますが、OJTを担当する先輩保育士には何を教えてもらうのか、園として明示しましょう。そしてどこまで指導が進んでいるか確認し、手助けが必要な時にサポートができるような体制を作りましょう。
新人保育士がOJT担当の先輩保育士を頼りにするように、OJT担当者の心の拠り所を作ることが重要です。

育成するための技術を磨く機会を与える

保育士として発揮する能力と、指導者として発揮する能力は別物です。

後輩指導にはマネジメントスキルを身につけることが不可欠ですが、これまでそれは指導者本人が経験によって培ってきたという保育園がほとんどではないでしょうか。確かにマネジメントスキルは経験によって磨かれますが、いきなり実践から始める前に原理原則やノウハウを学ぶ機会を設けましょう。

事前に知っているのとそうでないのとでは、同じ経験をしたとしても得られる成果に大きく差が出るため、一般企業ではマネジメントスキル向上のための研修は多く用意されています。保育業界でもようやく、マネジメントは学ぶものという認識が広がり始め、キャリアアップ研修の中にもマネジメントという分野が設定されました。つまり、育成する人を先に育成することが必要なのです。

もしあなたの園で後輩指導が苦手だという保育士がいる場合は、単にこれまで学ぶ機会がなかっただけかもしれません。園として学びの機会を提供することは、本人にとって有益なことはもちろん、園の”人が育つ風土づくり”につながります。

後輩育成やリーダーという役割を担ってもらう前の準備
・研修などでマネジメントの基礎知識を習得する
・マネジメントが得意な職員に、育成や指導のコツを教えてもらう
・手順が決まっているものや教え方を統一した方が良いものはマニュアル化する

得意な人だけが新人育成を担うのではなく、誰もができるようになれば、一人ひとりに任せられる仕事の幅も広がります。協働できるチームづくりのためにも、マネジメントスキルの向上はすべての職員にとって必要でしょう。

【3】新人保育士の育成計画を仕組み化する

子どもたちの保育に「保育の年間計画」があるように、新人保育士に対しても1年を通してどのように関わり育てていくか、相手に合わせた計画を立てることが大切です。 

1年目にはこれを教えておきたいという業務、ここまで身につけてほしいという能力を棚卸しすると、自ずと「何を」「いつ頃までに」教えるべきかが見えてきます。 指導担当者が計画に基づいて教えていくことはもちろんですが、新人保育士に対しても「あなたには1年を通してこんな能力を身につけてもらいたいと思っている」ということを最初の段階で提示しましょう。自分の求められていることが分かれば自発的に行動を起こすことができますし、期待されていることが明確であれば期待にも応えやすくなります。 

また、他の職員にも計画を開示することで、指導担当者だけに任せきりにならず、代わりに教えたりアドバイスをしてくれたりといったフォローし合う体制が出来上がります。 

新人保育士の育成計画の目的
・教わる側と教える側、双方の指標になる 
・指導漏れをなくす 
・新人保育士の評価に納得性を持たせる 

新人保育士の育成計画立案のポイント
・新人保育士が1年間の流れをイメージできるようにする
・何を、いつまでに、覚えて(身につけて)ほしいのか、園の考えを明示する
・どうやったら身につくのか、スモールステップで考える
・誰が、いつ、どうやって教えるのかを決める
・進捗確認や振り返りを、いつ(どのタイミングで)、誰が行うのか決める

育成計画立案の際には、若手保育士を巻き込むことをお勧めしています。自分が1年目の時に困ったことやもっと早く教えて欲しかったことなど、リアルな声を取り入れることで教える側と教わる側のギャップを減らすことができます。
若手保育士にとっても、1年目で身につけたい知識やスキルを知ることは自己点検の機会になるでしょう。

さらに理想的なのは1年目だけの計画にとどまらず、採用から育成、定着までの流れをシステム化することです。
園に合った仕組みを一度作ることができれば、今後採用する新人保育士の育成に役立ちますし、中途採用の保育士に対しても応用できます。

新人保育士の育成は保育そのものに似ている

新人保育士に限らず、人材育成はみなさんが普段行っている保育と共通点が多いものです。子ども一人ひとりの育ちや特性を捉えて保育するのと同じように、新人保育士の個性や経験に合わせ関わり方を変えましょう。子どもたちの育ちに個人差があるように、新人の育ちにも個人差がありますが、間違いなく成長します。1年かけて育てるという視点で、焦らず継続的に関わっていきましょう。

まずは何よりも、信頼関係を築くことです。新人保育士の1年後の姿を楽しみにしながら、ぜひ取り組んでみてください。   


目次