保育士が定着する園ほど高い!?職場の心理的安全性|保育園の心理的安全性をチェック

保育園の心理的安全性,心理的安全性チェック

投稿日:2022年11月2日

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心理的安全性とは

「心理的安全性(psychological safety)」とは、ハーバード大学の組織行動学者であるエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した心理学用語で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰を与えたりしないと確信できる状態」と定義しています。簡単に言えば、自分らしさを発揮しながらチームに参画できる実感のことです。

2016年にアメリカのGoogle社のリサーチチームが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果(プロジェクト・アリストテレス)を発表したのをきっかけに多くの企業が注目し、組織内の人材育成に取り入れ始めています。

心理的安全性が高いチームでは、役職や立場に捉われず、思いついたアイデアやちょっとした疑問を率直に発言することができます。逆に心理的安全性が低いチームでは、「こんなことを言ったら否定されるのでは」「こんなこともわからないなんて能力が低いと思われるのでは」と不安を感じ積極的な発言ができません。心理的に安全なチームづくりのためには「このチームでは何を言っても大丈夫」「自分をさらけ出してもみんなは受け止めてくれる」といった安心・信頼できる人間関係や、問題や課題に対して誰もが意見を言い合える風通しの良い職場風土を作る必要があります。

心理的安全性の高い保育園とは、職員一人ひとりが安心して自分らしく働くことができる職場であり、そのような園であれば職員は保育や子どもたちに集中することができるでしょう。つまり心理的安全性の確保は、保育の質の向上にもつながる重要な要素なのです。

実は似ている愛着理論

実は心理的安全性の概念は、保育を学んでいる人であれば知っているであろうボウルビィの愛着理論とよく似ています。1950年代、ジョン・ボウルビィは乳幼児と養育者との間に築かれる基本的な信頼感のことを愛着とし「安全が確保された状態で乳幼児の健全な発達が促される」という愛着理論を提唱しました。その後、メアリー・エインスワースが提唱した心の安全基地において、愛着形成が成された子どもは愛着対象(養育者)を安全基地とし、自由な探索行動をとることができるとされています。例えば、初めて行く公園でも好奇心の赴くままに自由に動き回る子どもは、そこに親という安全基地があることで安心して遊びに集中できるのです。このようなチャレンジできる環境による経験(成功体験も失敗体験も含め)の積み重ねは、子どもの発達を促進することにつながっています。

職場でも同じことが言えます。自分らしくいられる職場・チームであれば、人は未経験のことにも挑戦することができます。それによって職員本人の成長は促進され、職員の成長は結果的に園の成長につながるでしょう。

心理的安全性チェック

簡易的な心理的安全性チェックで自己評価してみましょう。園・チームを思い浮かべて当てはまるものは何個あるでしょうか。

私たちの園・チームでは…

  • 「言ったら否定されるかも」「間違ってるかも」意見はあるけど、発言するのを躊躇してしまう
  • 「嫌な気分にさせてしまうかな」「どう思われるかな」指摘したいけど相手の反応が気になって言えない
  • 「それいいね」共感・賛同が多く、反対意見を良しとしない雰囲気を感じる
  • 「あ~…ですよね~」無知だと思われたくないから、わからなくても聞けない
  • 困ったことがあっても助けを求めづらいから、一人で抱え込むことが多い
  • 個人の考えや価値観をチーム内で話すことはない
  • 失敗したくないから、これまでのやり方を変えたくない
  • 課題に気づいても自分の仕事が増えるだけだから言わないという選択をすることがある
  • ミスが起こった時、原因究明が犯人探しになりがち

いかがですか?3個以上チェックがつく場合は、チームの中の「心理的安全性」が低い状態かもしれません。 項目にあるような心理状態の背景には「不安」や「恐れ」があります。そういった風土がチームにあると、せっかくのアイデアも出し惜しみされたり、いい成果を出すための判断材料が揃わなくなってしまいます。 

ちなみに保育園でこのチェックをしてみると、管理者ほどチェックが少なく、現場の職員(もっと言えば若手)ほどチェックが多くつく傾向があります。園によっては、雇用形態(正規職員なのかパートなのか)によっても違いが出ます。発言しづらい、相談しづらい、などの心理状態はやはりそのチームにおいて立場の弱い人ほど感じるものです。チームに所属する全員の心理的安全性が高いことが良いチーム・生産性の高いチームにつながりますから、役職や立場に関わらずチェックが少ないことが理想です。

心理的安全性が低いとどうなるか

エドモンドソン教授は、心理的安全性が低いことで引き起こされる不安と行動の特徴を4つに整理しています。

無知だと思われる不安

無知だと思われたくないあまりに、必要なことでも質問をせず、相談しないという行動につながることが考えられます。質問や確認をしたくても「こんなことも知らないの?と思われるのでは」「これぐらい知っていて当然でしょ?と責められるのでは」と不安になり、聞けばすぐ済むようなことも時間をかけて調べて仕事が遅くなったり、確認しなかったことでミスやトラブルにつながったりするリスクが想定されます。

無能だと思われる不安

無能だと思われたくないあまりに、ミスを隠したり、自分の考えを言わないという行動につながることが考えられます。ミスや失敗をした時に「仕事ができない人だと思われるのでは」「能力が低いとがっかりされるのでは」と不安になり、自分の失敗や非を認めなかったりミスを報告せずに隠すようになったりして、大きなトラブルになるまで周りが気づけないリスクが想定されます。

邪魔をしていると思われる不安

邪魔だと思われたくないあまりに、必要でも助けを求めず、不十分な仕事でも妥協するという行動につながることが考えられます。職員会議などで自分が発言すると「議論が脱線し会議が長引くのでは」と自発的な提案や発言をしなくなったり、仕事を抱え込み「今忙しそうだから聞くと迷惑なのでは」と相談や質問をしなくなったりすることです。それによってチームにとって新しいアイデアや意見、仕事の質を高める機会を逃すリスクが想定されます。

ネガティブだと思われる不安

ネガティブだと思われたくないあまりに、議論を避け、率直に意見を言わないという行動につながることが考えられます。
チームのために改善を提案したくても「人を批判していると否定的に思われるのでは」「衝突するくらいなら言わない方が良い」と不安になり、課題に対する改善目的の指摘もしなくなったり、意見があっても言わなくなったりして、チームの課題が解決されないままになるリスクが想定されます。

これらの不安は誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。もし現在進行形でチーム内に起きているとしたら、それは個人だけの問題ではなく、チームの風土の問題かもしれません。
例えば、自分が良かれと思ってした発言や行動が自分にとって嫌な反応で返ってきたら、今後はやらない方がマシだという気持ちになるのも理解できます。それが積み重なって、積極的に行動して怒られるくらいなら言われるまでやらないという職員が育ち、主体性を阻害し受け身な職員が増えてしまうのです。

心理的安全性を高めるとどうなるか

心理的安全性が高まることで、保育園に起こる変化・効果を考えていきましょう。

コミュニケーションの活性化

保育はチームで行う仕事です。職員にとって、チームの心理的安全性が高まることによる効果は、主に対人関係における余計なストレスを感じることなく働けることです。

保育という仕事を進める上で、職員間のコミュニケーションは欠かせません。心理的安全性が高いチームでは、メンバーに話しかけるときに「今話しかけても大丈夫かな」「機嫌悪くないかな」とタイミングを伺ったり、「こんなこと聞いてもいいのかな」「手伝ってほしいとお願いしてもいいかな」といった心配をする必要がありません。なので、仕事を円滑に進めるための協力がしやすく、憶測ではない率直なコミュニケーションが取れるようになるでしょう。

職員間のコミュニケーションの活性化は、保育のチームワーク向上にもつながります。

一人ひとりが能力を発揮できる

心理的安全性が高いと、精神的に安定した状態で安心して保育や子どもたちに集中できます。自分の能力や個性を発揮できるようになり、より良い保育の提供に力を注ぐことができるでしょう。

そしてチームや自分の成長のための目標を立てることもできるようになり、さらなる能力向上も期待できます。チームにおける自分の役割を認識しチームを信頼できていれば、強みを活かしたり新しいアイデアを提案したりすることができるでしょう。それは結果として、園全体の保育の質の向上につながります。

課題の早期発見と解決

職員間のコミュニケーションが活性化されることで、課題を早期に発見・解決することにもつながります。

困り事が起こった時にすぐに相談ができたり、課題に対して有意義な意見や解決方法を提案できたりするからです。心理的安全性の高いチームでは、課題の原因を突き詰めようとする問題志向よりも解決に向けた前向きな議論が生まれやすい解決志向の特性があるので、ポジティブな雰囲気で課題に向き合うことができます。また、職員間での情報交換も活発になるのでトラブルにつながりそうなちょっした情報も集まりやすくなり、早い段階で気づいて事前に対策を打ったり、対処したりすることができるでしょう。

さらに、管理者やリーダーだけが感じている課題やもっとこうなると良いのにという理想を共有することで、職員一人ひとりが当事者意識を持って仕事にあたることもできるでしょう。

保育士の定着率向上

心理的安全性が高い職場では、自分の能力を活かして主体的に働けるため、職員のやりがいも高まります。そして組織に対する信頼感や愛着も高まるため、離職率の低下にもつながるでしょう。長く働く職員が増えれば、計画的な人材育成も実施しやすくなり、優秀な人材が増えていくことも期待できます。そのような風土ができている園には優秀な人材も集まりやすくなるという好循環が期待できます。

定着率の向上には、働きやすさも重要ですが、やりがいを持って仕事に取り組めることも同じくらい重要です。心理的安全性を高めることは「働きがい」を高めることにもつながるのです。

働きがいについてはこちらの記事もどうぞ。

心理的安全性が高いチーム=仲良し(ぬるま湯)チームではない

保育士の性格特性の割合を分析すると、感受性が高く、協調性が高いタイプが多いのですが、これらの強みは時に「心理的安全性」を低くしてしまう要因になることがあります。 同僚と異なる意見を持っていても、波風を立たせたくない、反論したら相手との関係が悪化してしまうのではないかという恐れや不安を感じやすく、「言えない」「言わない」といった消極性が生まれてしまいます。その結果「仲は悪くない」けど、いつもリーダーからの提案に同調する流れになり、若手からの意見・発言が上がってこないなど当たり障りのない関係性ができてしまいます。 それだと、せっかく能力の高いメンバーが揃っていても、自分らしさも能力も発揮せずに終わってしまうことになります。 ただの仲良し(ぬるま湯)チームは心理的安全性が高いとは言えないのです。

全職員が心理的安全性を正しく理解する

心理的安全性の向上のみを目的としてしまうと、馴れ合いや表面的な人間関係を助長することになりかねません。保育園で心理的安全性を高める目的は、より良い保育を提供することにあります。その前提を理解しないまま人間関係のストレスが少ないために居心地が良く楽な職場である、という誤った認識を持った職員がいると、頑張らなくても非難されない、ミスをしても許される、といった姿勢につながり、そんなメンバーがチームにいたら、誰かがフォローし続けなくてはなりません。結果としてチームのパフォーマンスは下がってしまうでしょう。ですから、心理的安全性を高めるためにはまず、全職員がその目的を理解している状態を作る必要があります。同じ目標に向かってチーム一丸となって頑張るために、チーム力を強化するために、みんなで心理的安全性を高めていくという共通認識が重要です。

配慮と遠慮を混同しない

心理的安全性を高めよう、と思うあまり、管理者が職員に遠慮してしまうことがあります。職員の様子を観察し必要なタイミングで必要なフォローをするという配慮や、職員の能力を見極めて少しストレッチした目標や仕事を与える配慮は管理者の大切な仕事です。しかし、仕事に必要な指摘や指導はしなくてはなりません。「人に優しく、仕事に厳しく」がマネジメントの理想です。そこに遠慮があると職員にとって優しいだけの人になってしまいます。職員の意思や意見を尊重することは重要ですが、それをすべて受け入れるのは違います。時々、これは配慮なのか遠慮なのか、と自分に問うことも管理者には必要でしょう。

チームの心理的安全性を高める3つのポイント

園内の心理的安全性を高めるポイントをご紹介します。

お互いを受け入れ、認め合う


人は否定され続けると恐れや不安が生まれ、言動が抑制されてしまいます。そうならないために、相手の意見を否定せずに受け止める(賛同するとは異なります)、ミスや悪い面を非難せず、改善に向けた助言やフォローを行う姿勢を示すことが大切です。 特に、人を否定しないというルールは徹底しましょう。私たちが目指すのはより良い保育のはずであり、決して個人攻撃ではありません。

心理的安全性の高さは「健全な対立」ができる状態を示すものでもあります。必要に応じて、違う見解、批判的な視点、突飛なアイディアなどを出し合うことで、議論を重ね、チームで最善の成果を出すことができます。 そのためには、普段から気軽に「ものが言い合える」風土を作りましょう。

そういった風土が根付いていると、新しく入った職員であってもスムーズにチームに溶け込み、力を発揮できるようになります。立場に上下はありません、ともに働く仲間としてお互いを尊重することがスタートです。 

対話の機会を増やす


いきなり自由に発言しましょう、と言われても慣れていない職員には難しいでしょう。そこで、1on1を取り入れてみる、討議の場がある勉強会などを設定する、などして対話する機会を増やすことから始めましょう。安心して雑談や対話ができる機会が増えて慣れてくれば、自由に発言することへの不安を徐々に取り除くことができます。
そのような機会を持つ時には、最初に何のために行うのかを共有することを忘れないようにしましょう。意図のわからない場面で発言することを繰り返しても心理的安全性にはつながりません。複数人で話し合う時には、グランドルールを示すのも効果的です。

アサーティブ・コミュニケーションを身につける


アサーティブ・コミュニケーションとは、相手を尊重しながらも自分の要望や感情を伝えるコミュニケーションのことです。アサーションとも呼ばれ、保育を学ぶ人であれば耳にしたことがあるでしょう。
アサーティブ・コミュニケーションを学ぶことで、自分の主張を適切に表現できるようになるため、どのような言葉を選んで伝えれば言いたいことが相手に伝わるか、を考えて実践できるようになります。心理的安全性が高いチームでは誰もが自由に発言できますが、言い方・伝え方は重要です。

信頼関係を築き誰もが自分らしく働ける園に

心理的安全性を高めるためには、管理者だけが尽力するだけでは実現は難しいでしょう。職員一人ひとりが「私はこの園の一員である」「自分の発言や考えはチームにとって有益である」「この園では誰もが尊重される存在である」という意識を持って仕事に取り組むことが大切です。そのためには職員同士の信頼関係の構築が何より重要です。

幸い、みなさんの職場にはお手本があります。子どもたちの世界を見てみてください。お友達に対して「これは違うよ」「やめてね」と素直に言える子が多く、多少ぶつかり合っても時間が経てば仲良く遊べますよね。こういった姿は心理的安全性が高いチームに似ています。チームづくりにおいても「子どもたちが先生」と言えるかもしれません。

心理的安全性が高い保育園・チームを作ることは、園にとっても働く職員にとっても多くのメリットがあります。取り組みやすい方法から始めて、誰もが自分らしく安心して働ける園づくりを目指してみてはいかがでしょうか。

参考書籍
●ピョートル・フェリクス・グジバチ , 世界最高のチーム Google流「最小の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 , 朝日新聞出版 , 2018
●石井遼介 , 心理的安全性のつくりかた 「心理的安全性」が困難を乗り越えるチームに変える , 日本能率協会マネジメントセンター , 2020

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