職場の業務改善を通じて保育に注力できる環境を構築するためのポイント|保育園の業務改善と問題解決

投稿日:2023年7月28日

保育園における業務改善と問題解決の考え方について解説します。
保育士にかかる業務負担を軽減し、保育に注力できる働きやすい職場づくりを目指している管理者必見の内容です。
目次

保育園における業務改善の必要性

令和3年3月に厚生労働省から「保育分野の業務負担軽減・業務の再構築のためのガイドライン」が示されました。このガイドラインでは、業務改善を行うための手順と取組例が紹介されています。
このガイドラインに示されている業務負担軽減とは、例外なく業務を省略しようとするものではなく、保育士が子どもと関わる時間を確保し、保育に注力できるよう子どもの保育以外の周辺業務を効率化することを目指しています。
近年の保育現場では業務が複雑化し、業務量が増えて保育士にかかる負担が大きくなっています。業務負担軽減と業務の再構築は、保育士が保育に注力できる働きやすい職場をつくることであり、それは保育の質の向上につながる取り組みであるともいえるでしょう。
現場の職員の意見を吸い上げながら、園長や管理者が中心となって働きやすい職場づくりに取り組むことが求められます。

保育園で業務改善が必要とされる背景

保育の現場で業務改善が求められる背景には様々なものがありますが、代表的なものは次の3つです。

保育士不足

これまで慢性的な人材不足に悩まされてきた保育の現場ですが、人が足りない現状では限られた人材で業務を回していく必要があります。
また、最近ではあちこちで少子化が叫ばれておりますが、子どもがいない以前に保育士が足りずに子どもを受け入れることができない保育施設の例も多いようです。園の運営上、業務改善は最重要課題だといえます。

業務量増加

子どもの保育以外の周辺業務だけでなく、保育に関わる書類作成業務、行事の準備や制作物、保護者へのお便りや連絡帳、リスクマネジメントに関わる業務…など、保育士が関わる業務は増える一方です。
最近の調査では、「仕事量が多い」が離職理由の上位に必ず入っており、長く働ける働きやすい職場づくりのために見直しが必要であることは言うまでもありません。

働き方改革

3つめは働き方改革です。
働き方を見直そうというのは、保育の現場に限らず社会全体の流れであり、働き方に対する旧態依然とした価値観を変えていくことが必要です。
例えば長時間働くことを頑張るとするのはなく、同じレベルの結果をどうしたら効率よく得られるかが大切であり、その方法を生み出すためには、なじみのやり方も一から考え直してみる必要があるでしょう。

保育園における業務改善が目指すところ

冒頭で述べたように保育園が目指す業務改善とは、ただ単に仕事を省くというものではなく、保育士が子どもと関わる時間を確保し、保育に注力できるよう、保育以外の業務の負担を軽減し、効率化することが第一の目的です。
近年の保育現場では業務の複雑化、保育以外の周辺業務量の増加などにより保育士にかかる業務負担が大きくなっています。また、手書きの書類や手作業による制作物が多いなど保育現場固有の問題もあり、何を残し、何を変え、どう効率化するのかという視点が大切です。

業務効率化のための4つの原則

さて、業務はどうしたら効率化できるのでしょう。業務改善のヒントとして4つの原則を紹介します。
これを手がかりに職員間でアイデアを出し合えば、思いもしなかった解決策が見つかるかも知れません。
① 排除の原則・その業務、作業は本当に必要か
・それをやめたらどんな不具合が起きるのか
・他のことで替われないか
② 結合の原則・その業務を一緒にできないか
・ひとつの仕事に組み込めないか
・他の仕事も出来るようにならないか
③ 入れ替えの原則・その作業の順番を入れ替えられないか
・順序を逆にしたらどうなるか
・同時並行で進めたらどうなるか
④ 簡素化の原則・もっと簡単にできないか
・もっと楽にできないか
・誰にでもできるようにならないか
・もっと省略できないか
長い間慣れ親しんできたやり方も、時間が経てば思うような成果に繋がっていなかったり、作業目的が曖昧になっていたりするかもしれません。改善策を考える際には既成概念や思い込みにとらわれないよう、現状を疑ってみることも必要です。

職場の業務改善に取り組もう|業務改善のプロセス

STEP
現状把握

職場の現状を整理して問題を抽出します。 大きな問題や小さな気がかり、手順が人によって違う、非効率だと感じていること、負担感が大きいこと、二度手間…など、様々な観点から書き出してみるといいでしょう。 園全体で意見を出し合う場合は事前アンケートを活用したり付箋に書き出すなどして整理しやすい状態にしておきます。抽出した問題を似たようなテーマでまとめたり、問題をより具体的にしておくなど整理し直すと解決策を考えやすくなります。

STEP
取り組む問題の決定

STEP1で整理した問題から、解決すべき優先課題を決定します。 問題はお互いに関連し合っていたり、ある問題が別の問題を内包していることもあります。 そして、すべてを一度に解決できればそれに越したことはないのですが、時間も人も限られている状況で前に進むには、優先順位をつけて取り組む問題を決定する必要があります。 また、常に完全解決を図ろうとすると動けなくなってしまうことがあります。このようなときには、当面どの程度まで改善できれば良しとするのかといった取り組みのゴールを関係者間で共有しておくことも大切です。

STEP
改善策の検討

STEP2で決定した問題について、具体的な改善策と実行計画を検討します。

STEP
改善策の実施

改善策を実施します。 管理者は改善策の進捗を確認したり報告を受けるなどして計画が当初の予定通りに進むようマネジメントします。必要があれば関係者間で話し合いを持つなどして調整を行いましょう。また、関係者間で互いの進捗状況が見えるようにしておくことも有効です。

STEP
評価を行う

計画を実行し終えたら振り返りを行い、上手くいったことと課題を整理し、次の改善に活かしましょう。

業務改善の具体的アプローチ

では、具体的に業務改善にとりくむにあたり、どのようなアプローチが考えられるでしょう。以下に代表的な3つの考え方を記しておきますので参考にしてください。
実際に実行するとなれば様々な制約があると思いますが、もし実行したらどうなるのかと具体的に考えてみることで、ハードルを乗り越えるアイデアが生まれてくるかも知れません。

●ICTの活用

手書き文化が根強い保育の現場も、近年ではIT機器の導入が進みした。ICT導入により効率化できることは登降園記録や写真管理、保育の記録、保護者との連絡、給食費の徴収、人事評価など多岐にわたります。
一方で、職員のITスキル不足やパソコンの台数が足りないなど課題もあります。しかし、知らないからやらないと決めてしまうのではなく、得意な人材に率先してもらいながら一歩ずつ前に進めていくことが大切です。

●保育補助者の活用

保育士の業務負担を軽減し、保育に集中できる時間や事務作業等に専念する時間をつくるためにも、保育補助者に周辺業務を担当してもらうことを検討すべきでしょう。
これまでの保育現場では、雇用形態にかかわらず保育士であれば同じ業務を担当することが多く、効率的な業務分担ができていない例が多く聞かれました。どう分担すれば効率良く1日の仕事が回るのかを再点検してみる必要があります。注意点としては、分業にこだわりすぎてお互いのサポートが不足することがないようコミュニケーションを欠かさないようにすることです。

●記録や書類関係の見直し

書式を決めて使い続けてきた書類も、現在では誰が何に使うのかも曖昧で意味をなさなくなっていたり、似たような書類が複数存在していたりと必要性に疑問を感じる書類があるかもしれません。また、本当に必要な書類であっても内容を簡素化できないか考える余地はあるでしょう。
保育の質の向上と生産的な業務のために過不足のない記録が行えるよう、定期的に見直す必要があります。

管理者として身につけておきたい問題解決能力

管理者が職場の業務改善などの問題解決にあたる場合、そのプロセスで様々な能力が要求されます。代表的なものをいくつか紹介しておきます。

本質理解力

問題を目の前のことだけ捉えるのではなく、他との関連で捉える。一面だけではなく多面的に捉えてみたり、長い目で見たらどうかと考えてみる。問題解決がモグラたたきのような一時的な対処にならないためには、表面だけ見るのではなく、問題の本質は何かを見極めることが大切です。

優先順位を決定する力

緊急性が高いという観点だけでなく中長期的に見て重要性が高い事柄にも着目し、いま取り組むべきことについて優先順位を決定したり、何を基準に判断し、解決すべきなのかを総合的に見極めていく力が求められます。

衆知を結集する力

職場の問題を解決するには、関わる職員一人ひとりがその問題を自分事だと捉えていないと上手くいきません。解決策を考えるプロセスで、関わる職員一人ひとりのフィルターを確認しながら「自分たちの問題」としていくことが大切です。

まとめ

どのような職場にも問題は必ずある

どのような職場にも問題は必ず存在しており、大きいか小さいかという程度問題でしかありません。うちの職場には問題がないという場合は問題が見えていないか、鈍感になっていることも考えられます。今年が良いからといって来年も良いとは限りません。管理者は問題の芽には敏感でいたいものです。

問題は成長の足がかり

問題が見えているということは、それを改善してより良くしていく余地があると言うことです。ひとつの問題を解決することは、私たちの職場がより良くなるための成長の足がかりです。

問題解決は繰り返す

職場から問題が完全になくなることはありません。ある問題を解決することで別の問題が引き起こされることすらあります。しかし、がっかりする必要はありません。問題が見えているということは、こうしたいという理想があるからであり、理想と現実との狭間で感じるギャップことが問題の正体です。
問題解決は組織が成長するための取り組みです。園の理想に向かって一歩一歩近づくために必要なプロセスだといえます。


今回のコラムでは、保育園の業務改善と問題解決について解説しました。働きやすくやりがいを感じられる職場づくりのために、仕事の現状について職員同士で話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。

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