保育園で活用すべきヒヤリハット事例|保育士が知りたいヒヤリハット報告書の書き方の基本

保育園のヒヤリハット,ヒヤリハット報告書の書き方

投稿日:2022年9月21日

子どもたちの行動は予測不能な面があり、保育園ではアクシデントも起こりやすくケガも多いものです。しかし、過去に起こった保育園の重大事故も、分析すれば防げたものがほとんどです。子どもたちの安全を守るには、保育者一人ひとりが当事者意識を持ち日常に潜む危険を知っていること、保育園が組織として保育現場に起こり得る事故防止策を日々見直すことが求められます。

そのために保育園で活用したい、ヒヤリハット報告について基本を押さえていきましょう。

目次

保育園のヒヤリハットとは

日常の保育において「ヒヤリとした」「ハッとなった」事柄、大きな事故に至らなかったが、事故の寸前だったという事柄を「ヒヤリハット」といいます。保育者なら誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。実際には事故にはならなかったとはいえ、放置すれば大きな事故やトラブルに繋がりかねません。保育現場では、保育者一人ひとりが経験するこれらの事柄を報告・共有し、それをもとに定期的な事故防止対策の見直しを実施することが重要です。

また、ヒヤリハット発生に気づける職員の育成も同じくらい重要です。日々の保育の中でほとんどヒヤリハット報告がないという園があるとしたら、それは報告の必要がない・面倒だと自己判断してしまっているか、保育者が気づいていないということです。もちろん、ヒヤリハット発生時に適切に対策して再発を防止した結果、発生が少なくなったことも考えられますが、保育現場でちょっとした違和感・気づきがないのは危険な兆候です。事故防止やヒヤリハット報告について改めてその重要性の共通認識を図り、今よりも安全な保育園づくりを園全体で目指しましょう。

ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」とは労働災害の発生比率を統計から分析したもので、それによると「重大な事故が1回あった場合、その裏には29回の軽傷事故、300回の怪我に至らない事故が発生している」とされています。その数字から「1:29:300の法則」とも呼ばれています。

ハインリッヒの法則,ヒヤリハット

この数字でいう300回がヒヤリハット案件にあたります。重大事故が起こる背景には多くのヒヤリハットがあり、それらを見逃さずに要因を分析・改善していれば重大事故は起こらないという考え方です。決して、重大事故は330回目に起きるからそれまでは大丈夫、なんて考え方ではありません。

同じようなヒヤリハットを繰り返さないようにするためには、園内での報告・共有・改善が重要になります。仮に同じヒヤリハットが繰り返し起こるとしたら、それはただの偶然ではなく再現性の高いアクシデントであり改善できるものです。ヒヤリハットの事例を集めてしっかりと対策を行えば、事故やトラブルを未然に防ぐことができます。

また、職員一人ひとりがヒヤリハットを意識することで、保育の質の向上が期待できるでしょう。忙しい中で記録を残すことは負担になるかもしれませんが、一人の気づきや違和感が多くの子どもたちの安全を守ることにつながります。職員が、ちょっとしたこと、よくあること、たいしたことないと報告を怠らず、重要な仕事であるという認識を持てるよう管理者として日々意識づけすることも必要です。

ヒヤリハット報告書の基本の書き方

ヒヤリハットの報告・共有は、どの保育園も実施していることでしょう。園によって報告書の様式や共有のルールは違いますが、報告書を作成して提出する方法が一般的だと思います。ヒヤリハット報告書を作成するのはそのヒヤリハットを体験した職員です。

ヒヤリハット報告書に記載すること

ヒヤリハット報告書に記したいことの基本は次のようなものです。さらに園で使いやすいように項目を増やしたり書き方を工夫したりして書きやすく見やすい報告書を作りましょう。文字だけでなく絵や写真で伝えるようにしている園もあります。

記載する事実
・報告者、関係者(体験した本人と居合わせた保育者)
・子どもの月齢
・発生日時
・発生場所
・どのような状況で何が起きたか(何をしていたときにどのような危険を感じたか)
・子どもの様子(傷などができた場合、どこにどのようにできたか)
・その場でどのような対応をしたか

事実をもとにした検討・分析
・ヒヤリハットが起こったのはどのような原因が考えられるか
・大きな事故に繋がらなかった要因は何があると考えられるか
・放置するとどんな危険・事故につながると考えられるか
・今後の対策としてできること

報告書に書かれた内容をもとにヒヤリハットを園全体に周知し、同じような事例の再発防止対策を取ります。

個人情報に注意する
報告書に子どもの氏名を記録する場合や子どもの様子を詳細に記載する場合は、個人情報の取り扱いに注意しましょう。年齢だけを記してヒヤリハット報告書には氏名を記載しない(イニシャルを使うなどする)園も多いようです。また、報告書は園内だけの共有資料としてだけでなく、保護者や自治体に開示する可能性があることも認識しておきましょう。

わかりやすいヒヤリハット報告書を書くには

報告書は、自分以外の人が見て理解できるように書かなければなりません。そのために報告書のフォーマットを工夫する必要がありますが、同時に、記載する職員にも下記のようなルールを伝え誰もが同じように報告書を書けるように指導しましょう。

  1. 5W1Hを使って書く
  2. 事実と意見(主観)を分けて書く
  3. 園外の人も理解できる言葉で書く
  4. なるべくヒヤリハット発生直後に書く

① 5W1Hを使って書く

「5W1H」とは報告・連絡・相談をする際の基本の型で、必要な情報を漏れなく伝えることができます。ヒヤリハットの状況説明も、5W1Hに当てはめながら説明をすると抜け漏れが少なくわかりやすい文章を書くことができるでしょう。

5W1H

When  (いつ)
Where (どこで)
Who  (誰が)
What  (何を)
Why  (なぜ)
How  (どのように)

わかりづらい報告書の典型は、主語が抜けているものや時系列がバラバラな文章です。初めてその報告書を読んだ人が、その場面をイメージできるか、書き終えた後に自分で読み直し、できれば別の職員に読んでチェックしてもらうと良いでしょう。

② 事実と意見(主観)を分けて書く

報告書には客観的な事実のみを記載します。ヒヤリハット報告は、起こった事象を正しく知り再発防止に取り組むために行うものです。したがって、個人の見解や意見とは切り分けて、まずは客観的に事実を伝えることが大切です。

実際に誰がどう行動し、その結果、何が起きたのか。
子どもたちのことをよく知っていたり、これまでの保育経験から原因がわかったりするため、主観を排除するのは難しいことですが、第三者としてその現場を見ていたらどう見えるのか、という客観的な視点を持つようにします。「これは書かなくていいかな?」と思うような些細なことも、事実であれば個人で判断せずに記録しましょう。

また、事故やトラブルが起きた場合、保育者が一部始終を見ていたのか、見ていなかった部分(時間や場所)があるのかもハッキリさせましょう。後者の場合、何が起こったのかは保育者の憶測と子どもの証言が食い違う場合もあります。それも記録として残しておきましょう。

ヒヤリハットが起こった背景や原因を推察して書く場合には、事実と見解が区別できるように分けて書きましょう。報告書自体をそのようなフォーマットにするか、そう記載できるように全職員に書き方のルールを徹底することをお勧めします。

③ 園外の人も理解できる言葉で書く

ヒヤリハット報告書は、内容によっては保護者や自治体などの第三者に開示する場合があります。誰が読んでもわかりやすい表現で書くことを心がけ、職員にしかわからない略語や園内だけで通じる言葉、難しい専門用語を使って書くことは避けましょう。

また、文章は箇条書きや要点をまとめて書くなど簡潔に書くようにし、後から見返した際にもわかりやすいようにします。新人保育士が読むことを想定して書くようにすると、わかりやすい文章になるでしょう。実際に、ヒヤリハット経験の少ない新人保育士にとっては、園内のヒヤリハット報告書が事例集となり、日々の保育における危険を予測する上での教科書となります。

④ なるべくヒヤリハット発生直後に書く

保育中のヒヤリハットをすぐに報告書にまとめるのは現実的に難しいと思いますが、それでもなるべく早く書き留めるようにしましょう。時間が経つと記憶は曖昧になります。特に子どもたちからの証言は二転三転することがあるので、発生後すぐに記録することが望ましいです。

例えば、報告書のフォーマットで事実を記載する欄だけすぐに埋めるようにし、分析や原因を検討するものに関しては時間をとって後から書くようにするとか、ボイスレコーダーや動画撮影などで関係者の証言記録をとって後から書き起こすなども有効でしょう。

また、報告書の作成が手間のかかるものだと面倒だから後回し、極力書きたくない、という考えにもつながってしまいます。報告書のフォーマットは一部を選択式にする、報告書の記入例を用意するなど、どの職員にとっても書きやすいものになるよう工夫しましょう。

事実を正しく把握するためには、発生直後に記録することが園として当たり前になるようにします。そして遅くとも当日中に報告書にまとめましょう。園によっては報告書作成のための時間を勤務内に設けることも検討が必要でしょう。

ヒヤリハット報告のNG

言い訳を書く
責められたり叱られたりすることを恐れ、自分は悪くない、という意識で報告書を書いてしまうと言い訳がましくなってしまいます。報告書はあくまで起こった事実を正しく把握するためのものです。誰を責めるためのものでもありませんので職員がそのような心配をする必要がないよう、園としてヒヤリハット報告書の意義・目的を共有しましょう。

誰かのせいにする
言い訳と似ていますが、ヒヤリハットの要因を分析する際に、子どものせいにしてしまうことが考えられます。実際に子どもの行動に要因があるとしても、保育者には動静把握義務というのがあります。子どもが、どこで誰とどんなことをしているのか、自分が担当する子どもたちの動静を常に把握するという監督義務です。自分は他の子を見ていたから見ていなかった、知らないなど、その場に居合わせたにも関わらず、誰かのせいにすることは保育者としてあってはなりません。あくまでヒヤリハットの当事者として客観的事実を報告することが求められます。

たまたま起きたこと、些細なことだと報告しない
そもそも報告しないというヒヤリハットの軽視です。自分の不注意で起きたことだから今後自分が気をつければ良いのであって全体に報告する必要はない、いろいろな偶然が重なって起きたことだから今後は起こらないだろう、あるあるの些細なことだから報告しなくてもいいか、など自己判断で報告しない例です。これはミスを隠すことでもあります。ヒヤリハットは園のために重要で報告はみんなにとってありがたい共有なんだということを意識づけする必要があります。誰かがケガをするような事態が起こってから「実は前にも…」とこれまでの報告になかった事例が出てくることがあります。どんなことも報告するのが当たり前になるよう園全体の危機意識を高めましょう。

保育現場で起こるヒヤリハットの事例

転倒・転落・衝突

  • その時だけ使っていた電気の延長コードに子どもがつまずき転びそうになった
  • 階段を昇っている時に話しかけられた子どもが階段を踏み外しそうになった
  • 子どもが床でお絵かきをして散らばっていた紙を別の子どもが踏んで転びそうになった
  • 子どもが窓の近くに踏み台になるものを持っていって外を見ていた
  • 追いかけっこをしていて子ども同士がぶつかりそうになった
  • 子どもが登った遊具のてっぺんで手を離して落ちそうになった
  • 子どもが複数人で手をつないで走っていて、一人が転んだのに引っ張られて全員で転んだ
  • 子どもが走っている最中に振り向いて、園庭の木にぶつかりそうになった

子どもは好奇心旺盛で大人がヒヤヒヤするようなチャレンジもしたくなるものです。それを何でも危ないからダメ、とはしたくはないですが、年齢に合わせてあまりに危ないことはさせない、何をしたらどう危ないかを教えた上で見守る、子どもたちから目を離さないなどの対策をとりましょう。特に高いところに登るような時には、必ず保育者が側にいられるよう、遊ぶ時の保育者の配置も考えておく必要があります。

また、子どもたちは夢中になると周りが見えないものです。ただの転倒だとしても、咄嗟の時に受け身を取ることもできずに顔からケガをする可能性もあります。そのため、保育室内や園庭に角がとがったものがないかを事前に確認し、万が一当たってしまっても大ケガにならないように対策をしておきましょう。

誤飲

  • おもちゃの部品が子どもの近くに落ちていた
  • 1歳児が服についたボタンを舐めていた
  • 子どもがクレヨンを口に入れようとするのを発見した
  • 乳児の近くで粘土遊びをしている子どもがいて乳児が興味津々で見ている
  • シャボン玉のストローを逆から咥えた子どもがいた
  • 給食の枝豆を噛まずに飲み込んだようで驚いた顔をした

誤飲は窒息に関わる危険な事故です。小さいおもちゃや備品は子どもの手の届かない場所に置くことを普段から徹底し、対策を考える時は子どもの目線でチェックするようにしましょう。また、口に入れてしまう以外にも鼻や耳の穴に入れてしまうという場合もあります。常に子どもたちの様子に目を配りましょう。

保育中は、子どもたちの周りに何があるのかを把握することも大切です。もし何か無くなったものがあったとして、無くなったことに気づかなかったとしたら問題です。そのために整理整頓することも大事な仕事です。

食物アレルギー

  • 食物アレルギーのある子どもにアレルギー成分の入った給食を配膳しそうになった
  • アレルギー児の隣の子が、アレルギー成分の入ったおやつをあげようとしていた
  • まだおうちで食べたことのない食品の入った給食を食べさせるところだった

食物アレルギーも命に関わる危険な事故につながります。アレルギー児への配膳方法を調理室と協力して徹底する、アレルギー児の情報を全職員で共有するなど、決して間違いを起こさないように気をつけましょう。

また、子ども同士のやり取りでアレルギー成分の入ったおやつを分けてあげようとする場合もあります。食事の時には、援助の必要のない年齢だとしても一人ひとりの行動に目を配るようにしましょう。

午睡中

  • うつぶせ寝になっていた
  • タオルケットが顔にかかりそうになっていた
  • 布団と壁の隙間に落ちそうになっていた
  • 子ども同士が近すぎてある子どもの足が隣の子どもの胸に乗っていた

「SIDS(乳幼児突然死症候群)」も広く知られるようになり、うつぶせ寝の姿勢を仰向けにすることやブレスチェックなどが保育園には義務付けられています。SIDSは原因のわからない病気であり予防法は確立していませんが、できるだけ発症リスクを抑え、発症に早期に気づくために保育者ができることを確実に行いましょう。

引用:乳幼児突然死症候群(SIDS)について

こども家庭庁

午睡時間は保育者の休憩や会議、事務仕事をする時間など、園にとって貴重な時間です。しかし、睡眠時の事故は静かに起こります。定期的な睡眠チェックにより、午睡中の事故も防ぎましょう。

プール・水遊び

  • プール内で足を滑らせそうになった
  • プールの周りを歩き回り、濡れた地面で転びそうになった
  • プールの中で子ども同士で押し合いをしていた

プール遊びでは、水圧などで体のバランスが取りづらくなります。また、ビニールプールに張ったごく少量の水でも事故が起きる恐れがあります。子どもが溺れるときは驚くほど静かだそうです。だから常に全員の顔が見えているかを確認します。目を離した一瞬が非常に危険だという認識を全職員が持ち、水遊びの際には普段よりさらに子どもの行動に注意しましょう。

散歩中

  • 子ども同士でつないでいた手を離して別行動をしていた
  • 野良猫を見つけて急に走り出した子どもがいた
  • 落ちていたタバコの吸い殻に触ろうとしていた
  • 歩道にあった溝に落ちそうになった
  • 縁石の上を歩こうとしていた
  • 公園の遊具の金具が錆びて取れかけていた
  • 公園で会った犬に手を伸ばしながら近づいて吠えられた

散歩中は子どもたちの興味を引くものがたくさんあり、園外という特別な場所で子どものテンションが上がることも多く、大人の考えが及ばないような行動を取ることがあります。散歩中の事故を防ぐためには、できるだけ交通量の少ないお散歩コースを選んだ上で下見をして安全を確認したり、付き添う保育者を多めに確保したりするなど、アクシデントが起きる前提で準備をする必要があるでしょう。

ヒヤリハット報告の活用

ヒヤリハットは個人の体験を報告・共有することから始まります。保育経験の長い方であればあるほど、さまざまなヒヤリハットを体験していることでしょう。それらは誰の身にも起こることです。そしてあるあるの事例こそ、重大な事故につながりやすいということも再認識しなければなりません。

ヒヤリハットに気づける職員を育成する

そもそも、保育者がヒヤリハットに気づかなければ意味がありません。子どもの何気ない行動や変化などから「ヒヤリとした」「ハッとする」という気づきを得られなければ、重大事故の予兆を見逃すことに繋がりかねないからです。まずは園内で過去に起こったヒヤリハット事例や他園で起こった重大事故について学ぶことから始めると良いでしょう。それを自分ごととして認識し、「こういうことが起こるかもしれない」と危険予測をしながら保育ができるようになったり、先輩保育士と保育を振り返りながら「あの場面でヒヤリハットがあった」という反省ができるようになることが理想です。まったくヒヤリハット報告書を作成しない、という保育者がいる場合には、管理者として気づきを促すことも必要でしょう。

また、他園との交流も有効です。事例の情報交換をして、他園で起こったことは自園では起こり得ないか検証したり、同じ地域の園なら地域内の危険箇所の情報共有を図ったりすることも大切です。保育園同士だけではなく、小学校や放課後児童クラブなどの施設との情報共有も地域の子どもたちの安全を守ることに繋がります。

さまざまな事例を通して、職員一人ひとりの危機察知能力を磨き、日々の保育に活かしましょう。

ヒヤリハット事例を全職員で共有し分析・改善する

報告書をもとに、園全体でヒヤリハット事例を共有する体制を整える必要があります。報告書を各自でチェックするというルールだけでは本当に共有されたかわかりません。かと言って、全てのヒヤリハットについて毎回会議を開くのも現実的ではないでしょう。本当に大切なのは、大事な情報を漏れなく共有し安全に対する共通認識を持つことです。したがって、例えば園に合わせて下記のようなルールを作り浸透させることなどが考えられます。

・報告書は誰でもいつでも閲覧できる状態にしておく
・報告書を誰もが簡単に閲覧できるようITツールを使う
・要因分析までは当事者や関係者で実施し、その結果と改善案を会議で報告する
・ヒヤリハット事例の担当者(責任者)を任命し、よく起こる事例や緊急度の高い事例などを発信する
・過去に起こったヒヤリハットで特に危険だったものについては毎年度再共有する

気をつけたいのは、全職員が同じように知っている状態にすることです。正規職員だけなど一部の職員しか知り得ない状況では、子どもたちの安全が確保されているとは言えません。保育士・調理員・看護師・バスの運転手など職種や勤務形態に関わりなく、いざという時に皆が同じ想定のもと動けるように、そして同じヒヤリハットを繰り返さないように、確実に共有しましょう。

ヒヤリハット事例を家庭とも共有し連携する

保育園で起こったヒヤリハットは、必ずしも園内でしか起こらないわけではありません。保護者と子どもの情報を共有し家庭の事故も未然に防ぐことも保育園の役割の一つです。子どもの発達過程や行動特性をより理解しているのはやはりプロである保育者ですから、園内でこのようなことがあったから家庭でも注意して見てほしい、と伝えることは保護者の子育て支援にもなるでしょう。

家庭のヒヤリハット例

  • 体力がついてきて自分で遠くまで歩けるようになったために迷子になった
  • ベランダにある箱に登れるようになり柵から乗り出しそうになった
  • 洗濯物を干しているときに鍵の開け閉めを覚えた子どもにベランダに締め出された
  • 目を離すとコンセントの電源プラグの抜き差しをしている
  • 少し大きな食べ物も噛まずに丸飲みしようとする

このように、家庭のヒヤリハットを教えてもらうことも重要です。特にその子どもの癖やその時ハマっている遊びなどを園と家庭で共有することは、子どもの発達や特性を理解した上で危険予測ができるので、子どもの安全に役立ちます。「できるようになった!」が増えてきた子どもの成長を喜び合いながら、同時に、保育のプロとして子どもの行動予測に関する情報提供もしていきましょう。

園と家庭をつなぐヒヤリハット報告の活用例

保育園にある大きな積み木(ソフトブロック)をとある子どもが積んでは倒すという遊びをしていました。どうやら倒すのが楽しいようです。保育士はいつもそれを見守っていたのですが、ある時、思いっきり押して倒した際にブロックが飛んで、少し離れたところにいた子どもに当たってしまいました。その子はケガをしたり泣いたりということは無かったのですが、保育士は倒し方が危ないなと思い、また、毎日その遊びをしてだんだん高く積めるようになってきたのも認識しており、ヒヤリハット報告として園内で共有、念の為、保護者にも報告をしました。

すると保護者から、家でも最近なんでも積み上げようとしているという家庭の様子を聞くことができました。その家には積み木がなかったので、食事中にコップなどの食器や拾ってきた石などなんでも積み上げるそうです。ブロックと違い不安定なのでそんなに高くは積み上がりませんが、以前石を積み上げて自分の方に倒れてきて青あざを作って泣いたこともあるという話も聞きました。

保育士はその話を園内で再共有し、その子の遊びを尊重しながら安全を確保する方法を話し合ったり、保護者にも園での様子を伝えて家庭での安全対策を促したりするなどして、ヒヤリハット報告を活用しました。

保育者一人のヒヤリハットを園全体の改善に活用する

保育の現場で事故やアクシデントをゼロにすることはできないでしょう。実際、2021年に全国の保育所や幼稚園、放課後児童クラブなどで子どもが死亡または重傷を負った事故は、2347件(前年比332件増)あったと内閣府が発表しています。しかし、日頃からヒヤリハットの活用を保育園全体で実施することで、大きな事故を未然に防ぐことはできるはずです。

みなさんの園でも日々さまざまなヒヤリハットが発生しているでしょう。子どもたちの安全を守るため、みんなが安心して過ごせる保育園にするため、職員一人ひとりが些細な変化や違和感に気づき、ヒヤリハットを積極的に報告・共有することが大切です。

あらゆる危険を想定した上で、園として事前にできる対策を打っておきましょう。子どもたちを守ることができるのは、側にいる大人です。重大事故が起きてしまってから「たら」「れば」を重ねることにならないよう、目の前の子どもの安全を守りましょう。

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