処遇改善等加算の「キャリアパス要件」とは【2026年度(令和8年度)版】|一本化後の区分1・2・3と今年度の注意点

投稿日:2023年8月10日
最終更新日:2026年6月12日

2025年度(令和7年度)に処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲが一本化されてから、1年あまりが経ちました。申請様式は新しくなり、提出書類も整理されましたが、現場からはいまも、こんな声が聞こえてきます。

「書類は新しくなったけれど、頭の中はまだⅠ・Ⅱ・Ⅲのまま」「区分1・2・3が旧加算とどう対応しているのか、自信を持って説明できない」「そもそも、うちの園はキャリアパス要件を満たせていると言い切れるだろうか」——私たちがキャリアパス設計のご相談を受けるなかでも、一本化後の制度理解と自園の整備状況に、不安を抱えている園は少なくありません。

2026年度(令和8年度)は、一本化2年目として運用が本格化する年です。令和7年度限りの経過措置が終わり、研修修了者の管理はより厳密になりました。本コラムでは、一本化後の処遇改善等加算を「区分1・2・3」の仕組みから整理し直したうえで、その土台となる「キャリアパス要件」を自園が満たせているかを確認するための視点をお伝えします。


目次

1. 処遇改善等加算の一本化とは——Ⅰ・Ⅱ・Ⅲから区分1・2・3へ

こども家庭庁は、2025年度(令和7年度)から処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲをひとつの「処遇改善等加算」に一本化し、その内訳を区分1・区分2・区分3に整理しました。複雑だった3つの加算の関係がわかりやすくなり、申請・実績報告の様式も統一されています。

旧制度との対応は、おおまかに次のように理解できます。

現在の区分位置づけ旧制度との関係主な目的
区分1基礎分旧加算Ⅰの基礎分に相当平均経験年数の上昇に応じた昇給等
区分2賃金改善分旧加算Ⅰの賃金改善要件分・旧加算Ⅲ相当を含む職員全体の賃金改善
区分3質の向上分旧加算Ⅱに相当技能・経験を積んだ職員への追加的処遇改善

出典:こども家庭庁「施設型給付費等に係る処遇改善等加算について」(令和8年4月8日改正通知)等をもとに作成

ただし、これはあくまで理解のための対応表です。2026年度(令和8年度)の申請・実績報告は、旧名称ではなく区分1・2・3として確認していきます。「旧加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの頭」から「区分1・2・3の頭」へ切り替えることが、令和8年度の出発点です。

なお、保育士・幼稚園教諭等の人件費については、令和7年補正予算で措置された+5.3%の改善が、令和8年度も継続される前提となっています。加算が確保されること自体はよい知らせです。しかし、これは単に「園に入るお金が増える」という話ではありません。処遇改善の趣旨に沿って職員の賃金改善へ確実に反映する——その説明責任も、同時に大きくなっているということです。


2. 区分1の要:キャリアパス要件——自園は満たせているか

区分1(基礎分)は、職員の平均経験年数の上昇に応じた昇給等に充てるための、制度全体の土台にあたる加算です。そして、この区分1で問われるのが「キャリアパス要件」です。

キャリアパス要件は、2015年(平成27年)に国から示されて以来、保育施設の処遇改善と人材育成の基本となってきました。一本化後も、その位置づけは変わっていません。確認したい項目を整理すると、次のとおりです。

  • 職位・職責の整理:主任、副主任、リーダー、一般職員などの役割が整理されているか
  • 賃金体系:職位・職責・職務内容に応じた賃金体系があるか
  • 書面整備:就業規則、給与規程、賃金表などに根拠があるか
  • 職員周知:全職員に内容を周知しているか
  • 資質向上計画:研修、技術指導、資格取得支援などの計画があるか

私たちが現場でよく目にするのは、「書類としては整っているが、職員に内容が周知されていない」「賃金表はあるが、実際の役割と結びついていない」という状態です。たとえば、給与規程に副主任の手当が定められていても、それがどんな役割を担う職位なのかを職員が説明できなければ、制度として機能しているとは言えません。

キャリアパス要件は、書面の有無だけでなく、書面と実態が一致しているかまで含めて確認することが大切です。

幼稚園・認定こども園の施設類型ごとの扱いは、こちらのコラムで詳しく解説しています。


3. 混同しやすい「キャリアパス要件」と「キャリアアップ研修」

ご相談のなかで特に多いのが、「キャリアパス要件」と「キャリアアップ研修」の混同です。名前は似ていますが、制度上は別ものです。

キャリアパス要件は、前章で見たとおり、職位・賃金体系・研修計画などの仕組みを園として整えることを求めるもので、区分1に関わります。一方、キャリアアップ研修は職員個人が受講・修了するもので、副主任保育士等や職務分野別リーダー等への処遇改善——つまり区分3(質の向上分)に関わります。

区分3では、次の3点がそろってはじめて加算の対象になります。

❶ 研修修了
副主任保育士等はおおむね7年以上の経験と定められた研修の修了、職務分野別リーダー等はおおむね3年以上の経験と担当分野の研修修了が目安です。

❷ 職位発令
役割を「なんとなく担っている」では足りません。職位発令書や職務命令書など、根拠となる書面が必要です。

❸ 4月1日時点の人数管理
区分3の加算額算定では、原則として当年度4月1日時点の研修修了者数で人数を確定します。年度途中の増減は、原則としてその年度の算定に反映されません。

ここで、令和8年度に特に注意したい変更があります。令和7年度には、研修修了「見込み」の職員を一定の条件で人数算定に含められる、経過的な扱いがありました。しかし、これは令和7年度限りの経過措置です。 令和8年度は、4月1日時点で実際に研修を修了しているかどうかが、より厳密に問われます。

「研修はこれから受ける予定だから大丈夫」という昨年度までの感覚を引きずると、加算額の算定でつまずきかねません。誰が・いつ・どの研修を受けるのかを、キャリアパスの一部として年度単位で管理することが、いよいよ欠かせなくなったということです。

キャリアアップ研修の修了要件の詳細は、こちらのコラムで解説しています。

※一本化後の制度を踏まえた役割・育成・評価の整え方は、毎月開催している経営者・管理者向けの無料セミナーでも解説しています。


4. 区分3の配分ルール——「誰にいくら配るか」の基準はあるか

区分3の賃金改善額には、次の考え方があります。副主任保育士等(区分3-①)は月額4万円を超えない範囲、職務分野別リーダー等(区分3-②)は原則として月額5千円。ただし職務分野別リーダー等については、副主任保育士等の改善額のうち最も低い額を上回らない範囲で、月額5千円以上4万円未満とすることもできます。

つまり一本化後の制度では、園の実情に応じた配分の幅が認められています。これは現場にとってありがたい柔軟さですが、同時に、こんな問いを園に突きつけます——「では、誰にいくら配るのか。その基準を、自園の言葉で説明できるか」

リーダー間で改善額に差をつけるなら、その根拠が要ります。経験年数なのか、担っている役割の重さなのか、発揮されている能力なのか。配分の基準が曖昧なまま運用すると、処遇改善がかえって職員間の不公平感を生む、という本末転倒な事態になりかねません。

この基準づくりこそ、等級制度・評価制度の役割です。職員の成長段階を等級として整理し、役割と処遇の対応を明文化しておけば、区分3の配分は「園長の胸三寸」ではなく「制度に基づく判断」になります。

なお、区分3は役職手当・職務手当など、基本給または毎月決まって支払われる手当で改善することが基本です。賞与で年度末にまとめて、という運用は制度趣旨と合わない点にもご注意ください。

等級制度のつくり方は、こちらのコラムで解説しています。


5. 「要件を満たす」と「制度が機能する」は別の話

ここまで、一本化後の制度とキャリアパス要件の確認点を見てきました。最後に、私たちが200園以上のキャリアパス設計をお手伝いするなかで実感している、大切な視点をお伝えします。

それは、加算の要件を満たすことと、キャリアパスが園の制度として機能することは、別の話だということです。

要件を満たすためだけに作られたキャリアパスは、書面の中だけの存在になりがちです。役職は発令されているが役割は変わらない、賃金表はあるが昇格の基準は誰も知らない——いわゆる「名ばかりリーダー」「形骸化したキャリアパス」です。これでは、処遇改善の本来の目的である「職員が将来に見通しを持ち、安心して長く働き続けられる職場づくり」にはつながりません。

折しも2026年(令和8年)7月からは、経営情報等の報告を行っていない施設への減算が始まるなど、運営の透明性を問う仕組みが新たに動き出します。「加算を取るための形式対応」が通用しにくくなり、制度の実質が問われる方向に、保育行政全体が進んでいると言えるでしょう。

だからこそ、キャリアパスは「加算のための書類」ではなく、「園の理念に基づいて人が育つ仕組み」として設計する価値があります。キャリアパスが形骸化する原因と見直しのポイント、設計の具体的な手順は、それぞれこちらのコラムをご覧ください。


まとめ:令和8年度、自園で確認したい5つのポイント

最後に、本コラムの内容を自己点検のかたちで整理します。

  • 処遇改善等加算を、旧Ⅰ・Ⅱ・Ⅲではなく区分1・2・3で説明できる
  • キャリアパス要件の5つの確認項目(職位・賃金体系・書面・周知・資質向上計画)を、書面と実態の両面で満たしている
  • 区分3の対象者について、研修修了・職位発令・4月1日時点の人数を管理できている
  • 研修修了「見込み」を前提とした昨年度までの運用を引きずっていない
  • 区分3の配分額の差を、等級・評価などの自園の基準で説明できる

ひとつでも不安が残る項目があれば、年度の早いうちに整理しておくことをおすすめします。とくに「書面はあるが、実態と結びついているか自信がない」という園にとっては、キャリアパスそのものを見直すよい機会です。ご自身の園の状況と照らし合わせながら、確認してみてください。

なお、申請期限・提出様式・添付書類は自治体によって異なります。最終的には、必ず施設所在地の自治体要領をご確認ください。

執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)

株式会社ネクサスは、保育施設に特化したキャリアパス設計・人材育成支援を行っています。キャリアパス要件への対応から、評価・賃金と連動した「機能するキャリアパス」の設計まで、お気軽にご相談ください。サービスの詳しい資料はこちらからご請求いただけます

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