園長が考えたい「選ばれる保育園づくり」とは|利用者・保育士・地域の3つの観点

選ばれる園,保育園

投稿日:2022年6月22日

少子化が急速に進む中でも保育需要は増え、都市部を中心に全国各自治体で待機児童解消のために園を増やしてきました。その一方で人口の過疎化が顕著な地方では、子どもがいないことによる保育園の定員割れも珍しくなくなってきています。地域によって保育園の置かれている状況は大きく異なりますが、今回は、都市部でも地方でも言える「選ばれる園づくり」について下記の3つの観点から考えたいと思います。

① 利用者から選ばれる園づくり
② 保育士から選ばれる園づくり
③ 地域から選ばれる園づくり

目次

選ばれる園づくりを経営感覚で考えよう

本題に入る前に、あなたは保育園が選ばれるためには何が必要だと思いますか?

・より良い保育を提供すること
・質の高い職員集団をつくりあげること
・危機管理がしっかりできていること
・保護者が安心して子どもを預けられる園であること

保育現場の方々に聞くと、このような答えが返ってきます。この問いに明確な正解はありませんが、実に保育士らしい回答だといえます。もし仮に、一般企業の経営者や管理職に同様の質問をぶつけたとしたら果たしてどんな答えが返ってくるでしょうか。おそらく企業経営者達は、全く異なったタイプの回答をされるでしょう。

保育園の経営者・管理職には、選ばれる時代が叫ばれる中でも「ともかく目の前の仕事を一生懸命にやってさえいれば、あとは誰かが何とかしてくれるだろう」という発想があるように感じられることがあります。「我々は社会で必要な仕事を請け負っているのだから、政治が、行政が、社会が何とかするべきだ」もしくは「少子化が進んで社会に必要とされなくなったら、その時はその時。致し方ない」という傾向の考え方です。そのこと自体が間違っているものではないのですが、しかし本来組織を経営するという行動は、決してそのように受身なものではないことも事実です。

保育園とともに、同じ地域社会で共に生きる企業経営者達は、常により険しい道を、経営スキル・経営感覚を頼りに、生き続けています。ここ数年のコロナ禍に翻弄され、苦しい決断を迫られた会社も少なくないでしょう。保育業界にも保育士不足や少子化といった問題はありますが、少なくとも、女性の社会進出をはじめとした社会環境の変化は、当面のあいだ保育園にとってプラスの影響をもたらすことはあっても、先行きが暗くなるような話はありません。なぜなら政治も行政も、思想や政策の差はあっても、少子化の解消、働く親の支援、幼児教育の質的向上と社会政策としての均質化は解決すべき課題として意識され、共有されつつあるからです。

しかし、これらの環境の変化や新しい保育政策は、より少子化が進み保育園の供給過剰になった時、「明るい未来にふさわしい保育園」を選んでいくと思われます。新時代にふさわしい意識と質を兼ね備え、利用者を含めた地域社会から支持される保育園を選んだ上で応援していくことになります。なぜなら、社会で活動するあらゆる組織に対して、いま共通して求められているものが、効率的で実質的で、社会性の高いサービスだからです。平成10年の児童福祉法改正からはじまった「保育園が選ばれる時代」の真の意味合いもそこに本質があるのではないでしょうか。

だからこそ、保育園のこれからには、経営職としてのスキル、あるいは経営感覚ともいうべき「経営者・管理者の資質」が必要となります。それは、オーナー園の園長だけでなく、いわゆる雇われ園長だとしてもその役割は同じです。

① 利用者から選ばれる園づくり

あらゆる仕事(事業)は、お客様の支持によってでしか発展・繁栄はもとより、存立・存続そのものができません。つまり、お客様の指示を獲得するための努力を重ねる以外のいかなる方法もないと言えます。ということは、業績不振(子どもが集まらなくなる、評判が落ちるなど)は、少子化やサービス合戦などの環境や競争がその原因なのではなく、お客様(保護者・地域社会)の支持を獲得できない自らの活動のあり方に根本的な問題があるということになります。

だとすれば、私たちの最大の競争相手は、同業者(他の保育園や幼稚園)ではなく、時代の変化と変化する顧客ニーズ(お客様の求めているもの)であると考えなければなりません。また、いくら同業者が多かろうと私たちにとってはまったく競争相手ではない、と考えられるような自己差別性(オンリーワン的要素)に優れた存在になれば良いと考えましょう。

保育園にとっての自己差別性の要素(商品とサービス)とは

・人的環境=保育者、職員
・組織の存立の理念や保育方針などの組織の共通の目標の成文化と共有化・共通理解
・職員の能力を最大限に引き出すことのできる組織としての取り組み
・デイリープログラムや行事に表現される保育そのもののあり方と裏付け、徹底
・園舎や保育室、衛生管理などに代表される施設環境

などが挙げられます。

また、保育園の場合、お客様=保護者と捉えることに異論はないものの、顧客ニーズ=保護者へのサービスと短絡的に考えてしまうのはどうなのでしょうか。子どもを対象とする保育サービスの向上=保護者が本質的に求めているニーズ(潜在的ニーズ)という長期的視点を持っていたいものです。

園内で押さえたいポイント
□ 信頼される保育園の要素を挙げてみる
□ あなたの園の強みと弱みはどこか職員間で共通認識を図る
□ あなたの園の置かれている環境と今後の社会の変化について把握する
□ 利用者の意見を聞く機会を設ける(アンケートなど)

② 保育士から選ばれる園づくり

保育は、人がいなくては成り立たない仕事です。そのような仕事はいくつもありますが、保育においては人数を確保することだけでなく、保育者そのものが魅力的であることが求められます。どんなに素晴らしい保育メソッドがあっても、それを提供するのは人ですから、保育の質の向上は保育者の資質向上であるといえます。

そんな中、どの園も直面しているのが深刻な保育士不足です。これからは利用者から選ばれるだけでなく、働く人からも職場として選ばれ続けなくてはなりません。 とても大変なことですが、できることなら人材を「集める」のではなく人材が自然に「集まる」ような「働きがい」のある職場づくりを目指したいところ。

 では、「働きがい」とはなんでしょうか? 世界中の会社の「働きがい」を調査するGPTW社の調査によれば、「働きがい」とは「働きやすさ」と「やりがい」の両方が備わった状態と定義しています。 

ハーズバーグの2要因理論

「働きやすさ」とは、「衛生要因」にあたり、快適に働くための労働環境や就労条件などのことです。近年盛んに取り組まれるようになった「働き方改革」の中心テーマでもあります。 この数年で、有休を取りやすくしたり給与規程を見直したりするなど、取り組まれた保育園は多いのではないでしょうか。 

もう一方の「やりがい」とは「動機づけ要因」にあたります。 仕事そのものに対するモチベーションや、仕事を通じた変化や成長などのことです。「働きがい」を醸成するには、どちらか一方があるだけでは不十分で、両方を整えていく必要があります。 

「働きやすさ」については取り組み自体が具体的であり、その成果も目に見えやすいことから整備が進んでいる職場も多いでしょう。「やりがい」は目に見えないものですが、持てる力を出し切って何かを成し遂げたときに感じる充足感、と表現するのがわかりやすいかもしれません。 

保育園の職員がやりがいを感じる場面の例

  • 子どもの成長を感じるとき 
  • 自分の得意な仕事に取り組んでいるとき 
  • 保護者や仲間たちから感謝されたとき 
  • 新しい活動に挑戦してやり遂げたとき 
  • 責任ある役割を任されたとき 
  • 自分の成長を実感できたとき 
  • チームの役に立っていると感じたとき …等 

やりがいを感じる場面は、人によってもその立場によっても違います。まずは今働いている職員一人ひとりに聞いてみることをお勧めします。意外な答えが返ってくるかもしれませんよ。

職員がイキイキと働く活性化した職場は、良い人材を引き寄せます。そしてまた人材が成長し、保育の質が向上していく。 それが結果として利用者から選ばれる保育園として存続し続けることに繋がるのではないでしょうか。 「他の保育園ではなく、この保育園で働きたい」という人材を増やせるよう「働きがい」のある職場づくりが求められています。

③ 地域から選ばれる園づくり

保育園は、私立の園であっても公の施設と呼ばれます。それは、地域社会にとってなくてはならない存在であり、地域貢献を期待されているからです。時代や社会の変化があっても、地域から必要とされていれば行政からも無くなっては困ると言われ、存続し続ける大きな理由になります。保育園の地域貢献、地域との連携にはどんなことが考えられるでしょうか。

保護者の子育て支援

ほとんどの園で取り組んでいることですが、家庭の子育てを支援することは地域貢献だといえます。

以前に比べて核家族が増えたことで、家庭内の子育ては親だけの責任にされがちです。誰にとっても初めての子育ては不安なもので、一般の子育て関連本やネット情報に振り回される保護者も少なくありません。

そんな時、保育のプロとして子どもの育ちの相談に乗れるのは保育士さんでしょう。普段の子どもの様子も把握している中で、家庭と連携して共に子育てをしていくことは保育園の重要な役割です。

地域の子育て支援

園に通う子どもだけでなく、地域に生まれた子どもたちの子育てを支援することが求められています。

日本には未だに、子どもが幼いうちは親が自分で子育てをした方が良い、という考えが根強くあるように思います。もちろんそれ自体は良いことですが、家庭内だけで孤立しないようにサポートすることが必要です。

十分なサポートのためには、保育園だけでは把握することは難しいでしょう。病院や保健所などとネットワークを築きながら、親を取りこぼさない仕組みを作ることが地域貢献になります。可能であれば、妊娠中の段階から悩みや子育てに関する不安を聞いたり、保育園に預ける際の疑問点を解消したりできるとなお良いでしょう。

実際に、プレママ教室を子育て支援事業の中で実施している保育園もあります。地域に開かれている園であることも周知しながら、その後保育園に預ける段階になった時、利用者として園を選んでくれる可能性も高まるでしょう。

地域の交流拠点

保育園を子どもたちだけでなく、地域に住む人との交流拠点として利用することも地域貢献になります。

地域の介護施設などと連携しお年寄りとの交流を行ったり、園の行事を地域住民と合同で行う、もしくは地域の行事に園として参加したりしている園は少なくないのではないでしょうか。さらには、地域の中小企業とコラボレーションしたイベントなどを実施している保育園もあります。それをきっかけに新たな地域連携が創出され、地域の活性化につながることがねらいです。

このように地域コミュニティを支える「場」を提供することで保育園がハブとなれば、地域の中の園の存在感がより高まるでしょう。

学生のキャリア支援

現在、日本ではキャリア教育に力を入れています。その一環として小中学生では職場見学を行うことが多いのですが、保育園ではその受け入れをしていることでしょう。これも地域貢献の一つと言えます。

中には未来の保育士になる子どももいるかもしれません。また、養成校の実習生を受け入れることもキャリア支援になります。これまでも取り組んできたことではありますが、地域貢献の一つと捉えてみると取り組み方も変わるのではないでしょうか。学生の時期に経験したこと、見聞きしたことはのちの選択に大きな影響を与えます。学生にとって良い経験になれば、もしかすると、将来働き手として園を選んでくれるかもしれません。


地域に対して保育園ができることはもっともっとあるでしょう。
まずは、その地域にどんな課題があって、園としてその解決の力になれることはないか、潜在的なものも含めてニーズを知ることです。そして地域との関わりには園長だけではなく、職員や利用者も巻き込んでいくことが必要です。結果、地域住民にとって誇りを持てる園となり、なくてはならない存在になれるでしょう。

選ばれる園の実例

実際に、過疎化が進み、地域の子どもが減ったことでほとんどの園で定員割れが起こっているという場所があります。A園とB園は少し距離は離れていますが、この同じ地域に存在する保育園です。
※実例をベースにしていますが、園を特定できないように脚色を加えています。

A園は、数年前に定員を下げましたが、それでも今年は定員割れで始まりました。
長く勤めている職員が多く退職者がいないので新しい職員を採用する必要がなく、しばらく若手を採用したことがありません。あと5〜10年もすると、ベテランの職員たちが一斉に定年を迎えます。それを見越して新卒採用をしようと思いましたが、ここ数年新卒採用の実績がないせいか、応募がありません。

周りの住宅地も高齢化が進んでだんだん園児数も減ってきて、以前に比べると行事もダイナミックなことはできなくなってきました。それもあって、3歳以上になると同じ地域の他の園へ転園する利用者がちらほら出てきました。小学校へ行った時に規模の大きい園の子たちの輪に入れないとかわいそうという保護者の想いもあるようです。

1法人1施設で運営してきましたが、最近、近隣の園との法人合併を行政から打診されています。

B園は、今年度も定員120%でスタートしました。
立地としては少し不便なところにありますが、地域内の遠いところから通ってくれている利用者もいます。

職員は毎年必ず新卒採用を行っています。多くは今勤めている職員の母校の後輩で、募集をかけずとも学生から問い合わせがあるくらいです。職員数が十分なので、産休・育休、普段の有給休暇も取りやすい環境が作れているし、この地域には珍しく男性保育士も多い園です。

近年増え続ける気になる子に対する保育事業を始めようかと行政に相談したら、ぜひやってほしいと背中を押されました。1法人1施設で運営していますが、地域の子どもに関するニーズに応えているうちに事業は手広くなりました。

A園は、特別何か問題があるわけではありません。長い間、その地域に必要とされ多くの子どもたちが巣立っていきました。しかしこのままでは、遠くない将来、残念ながら淘汰されてしまうことになるでしょう。

B園は、毎年何かしら新しいことに取り組んでいる園です。園長が交代して10年余り、そういう組織文化、組織風土ができてきました。地域に待機児童はいないが、この園の待機児童はいると言われるくらい人気があります。

「現状維持は衰退である」ということを表している実例といえます。

選ばれ続けるとは変化し続けること

最近、世界遺産である法隆寺のクラウドファンディングが話題になりました。
目標額を大きく上回るほどの支援が集まり、法隆寺を後世に残したいという人々の想いが目に見える形で現れました。なぜこんなにも多くの人から支持されるのでしょうか。支援者の方々それぞれに法隆寺に対する想いがあり応援したい理由があるでしょう。それは法隆寺の持つ「価値」です。

保育園にも、100年以上の歴史を持つ園があります。歴史や伝統のある園は、それだけが価値なのではありません。考えたいのはなぜ歴史があるのか、です。最初から、歴史ある園を作るぞ、と始めた訳ではないでしょう。選ばれ続けてきたからこその歴史です。その園に関わってきた人々が重ねてきた日々が積もり積もった結果、歴史や伝統につながっているのです。

そして、そのような園はむしろ、時代や社会の変化に柔軟に対応してきたことでしょう。想像してみてください。10年前、20年前、50年前…今と同じ保育をしていたわけがありません。子どもたちの置かれている環境も、子どもたちの未来の環境も、まったく異なっているでしょう。しかしそのような中でもきっと、変えてはならないものもあるはずです。変わってはいけない大切なものを守り受け継いでいくために、私たちは変化し続けなければならないのです。

この先、保育園は選ばれ続けることが必要です。そのための絶対的な施策はありませんが、一つ言えるとすれば、何もしなければ選ばれる園になることはできないでしょう。選ばれるとは何かを問い続け、考え得る最善を尽くすこと、その一歩はいつも今日から始まります。

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