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【保育園版】マネジメントの基礎知識|保育士に必要な能力と保育園で取り組める人材育成4つの方法

保育士,能力,保育園の人材育成

投稿日:2022年6月29日

職員の人材育成は大切、保育園は人が宝、と人材育成に力を入れている園さんは多いことでしょう。そして、保育園の園長先生を始めとする管理者の方々のお悩みが多いのも「人材育成」です。管理者にとって重要な仕事ながら、短期的な成果の見えない人材育成は、常にこれで良いのだろうかという不安がつきまとうものです。

今回は、そもそも人材育成とは何か、というマネジメントの基礎知識を確認しながら、保育園で取り組みたい人材育成の基本的な4つの方法についてお伝えします。

目次

保育園の人材育成とは

一般的に、組織にとって人材育成は、将来に渡って組織が持続・発展していくために、活躍・貢献できる人を育てることです。つまり人づくりです。そしてその組織で活躍・貢献するという定義は組織によって違うため、人材育成は組織の責任といえます。

保育園という組織における人材育成にはもう一つ意義があります。それは、保育者の資質向上は保育の質の向上と直結するということです。一般企業でいう商品・サービスを向上させるための施策が、保育園では職員の人材育成であると言えます。

保育を提供するという部分は同じでも、何を目指すのか、どうやって目指すのかは園によって全く違います。保育に対する姿勢や考え方を保育観といい、保育士の退職理由の上位にも「保育観が合わなかった」「自分のやりたい保育と違った」というのがランクインします。職員一丸となって理念に向かっていくためには、園と職員の保育観が一致しているかどうか(もしくは共感できるかどうか)も大切です。そういう意味では人材育成は採用の段階から始まっているのですが、保育士不足な今、数少ない応募者をとにかく採用して園で育てるという園も多いでしょう。

ですから、人材育成は「自園の理念を実現できる人を育てるにはどうしたら良いのか」という長期的な視点を持って計画的に取り組む必要があります。

保育園あるある:人材育成の勘違いポイント

  • うちは研修をいっぱい受けているから大丈夫!… 人材育成=研修の実施 にとどまっている
  • みんなそうやってやってこれたから何とかなる!… 経験年数が長い=リーダー を丸投げしている
  • 本音は「最近の若い人は」「私たちの頃は」「背中を見て学べ」… 成長は本人の元々の能力と努力によるものだ と思っている

私たちの保育園では どんな能力をどうやって身につけるのか

保育士が身につけるべき能力として一番最初に挙げられるのは保育の専門性ではないでしょうか。各園で実施している園内研修でも団体などから案内のある外部研修でも一番多く取り扱われるテーマでしょう。保育士は専門職ですから、専門性を磨くのはとても重要なことです。しかし、保育に関する専門知識や技術を身につけるだけでは保育士の能力としては不十分です。

保育士である前に社会人としての姿勢や能力を身につけることも必要ですし、対人援助職として高度なコミュニケーション能力も求められるでしょう。また、保育はチームで行う仕事ですから協働力も欠かせませんし、経験を重ねリーダーに任命されるようになれば後輩育成やチームをまとめるマネジメント力も重視されます。

このように、保育士が園内で活躍できる人材になるためにはさまざまな能力を身につける必要があり、園としては活躍できる人材を育てるために「人が育つ土壌」を作る必要があります。「能力が身につくかどうかは本人次第」「自主的に勉強して成長すべき」といった考え方では、園の理念を目指せる人材は育ちません。

「私たちの園では、どんな能力を、どのように身につければいいのか」を園として明示し、職員の育成計画を立てることが人材育成の第一歩です。

保育士も知っておくべき「人生100年時代の社会人基礎力」

保育士に限らず、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として2006年に経済産業省が定義した「社会人基礎力」をご存知でしょうか。「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されたものです。

社会人基礎能力

経済産業省「社会人基礎能力」

経済産業省

それでは3つの能力と12の能力要素について詳しく見ていきましょう。

前に踏み出す力(Action)

これは「一歩踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」と定義されています。指示待ちにならず、一人称で物事を捉え、自ら行動できるようになることが求められています。保育においても「主体性」は大きなトレンドとなっていますが、主体的な子どもたちを育成するためには、まず保育者自身が体現する必要があります。

そのために必要な能力要素は次の3つです。

  • 主体性  :物事に進んで取り組む力
  • 働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力
  • 実行力  :目的を設定し確実に行動する力

考え抜く力(Thinking)

これは「疑問を持ち、考え抜く力」と定義されています。論理的に答えを出すこと以上に、自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的な思考力が求められています。日々の仕事をただこなすだけ、行事も昨年と同じやり方でいいや、では保育の質の向上は望めません。園の課題を自分ごととして捉え、常に考えながら改善に向けて行動する力が必要です。

そのために必要な能力要素は次の3つです。

  • 課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
  • 計画力  :課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
  • 創造力  :新しい価値を生み出す力

チームで働く力(Teamwork)

これは「多様な人々とともに、目標に向けて協力する力」と定義されています。グループ内の協調性だけに留まらず、多様な人々との繋がりや協働を生み出す力が求められています。保育という仕事では、この力がベースにあって初めて専門性を活かせると言っても過言ではありません。

そのために必要な能力要素は次の6つです。

  • 発信力  :自分の意見をわかりやすく伝える力
  • 傾聴力  :相手の意見を丁寧に聴く力
  • 柔軟性  :意見の違いや相手の立場を理解する力
  • 情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
  • 規律性  :社会のルールや人との約束を守る力
  • ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力

2017年には、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」として新たに定義しました。社会人基礎力の3つの能力(12の能力要素)を内容としつつ、「目的」「学び」「統合」の3つの視点でバランスを図り、リフレクション(振り返り)しながら、能力を高めていくというモデルです。

人生100年時代の社会人基礎能力

そもそも仕事における能力には、どの組織でも通用する一般的な能力その組織でしか通用しない独自の能力があります。社会人基礎力は前者であり、たとえ保育園以外の組織に行ったとしても通用する力です。一方で後者は自園でしか通用しないため、各園が独自で定義づけする必要がありますが、多くの保育園でここが不十分です。私たちの園で必要な能力とは何か、どんな能力があれば私たちの園の保育士として活躍できるのかについて言語化することをお勧めします。

保育園で取り組む人材育成の4つの方法

人材育成の方法は4つあります。仕事の中で学ぶOJT、仕事を離れて学ぶOff-JT、自発的に学ぶ自己啓発、そして人材配置です。どんな能力が必要なのかが明確になったら、次は、その能力はどうやって身につけるのが効果的なのかを考えます。とにかく研修を受ければ良い、というのではなく、身につけたい能力(知識や技術)に合わせて学び方を変えることが重要です。

また、能力が身についたかどうかについて確認するためには、評価者フィードバックも欠かせないでしょう。「何がどこまでできるようになったら、その能力が身についたと言えるのか」「まだこれが不十分だから身についたとは言えない」と、能力を身につけるまでの現在地を確認することは更なる成長のために重要な役割を果たします。

① OJT(On the Job Training)

OJTとは、仕事に必要な知識やスキルを日々の仕事を通して学ぶことです。保育園でも、後輩指導と言われるほとんどの部分をこの方法で実施していることでしょう。

保育園でのOJTのメリット

  • 日常保育を実践するために必要な能力を身につけられる
  • 一人ひとりの特性や現状に合わせて教える内容や教え方を柔軟に変えられる
  • OJTを担当する職員にとっての成長機会となる
  • 指導そのものがコミュニケーションを図る機会になる
  • 普段の仕事の中で行うため特別な費用がかからない

保育園でのOJTのデメリット

  • 教える側の能力や教え方によって、身につくスピードや習熟度にばらつきが生じる
  • 教わる内容が実務的な知識や方法に偏り、仕事の全体像が把握できない可能性がある
  • OJTを担当する職員に知識や余裕がない場合、指導ではなく指示を出すだけになってしまう
  • OJTを担当する職員にとって負担になり得る

OJTが効果的に機能しているかどうかは担当者に大きく左右されるため、園としてはOJTを担当する職員を育成しておく必要があります。職員が受け身で指示待ちになっている、もっと主体的になってほしいというお悩みを最近よく聞きますが、それはOJTがうまくいっていないせいかもしれません。

効果的なOJTを実施するには、山本五十六の有名な言葉に倣うと良いといわれています。


やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

いきなりやらせてみる丸投げや指示だけ出して放置ではなく、かと言って口や手を出しすぎることもなく、一つの仕事を任せ切れるようになるまでに段階を踏んで指導していくことが重要です。そしてそのOJT担当者に対しても、園として管理者としてフォローとサポート体制を作っておくことが必要です。

② Off-JT(Off the Job Training)

Off-JTとは、仕事を離れて学ぶことであり、代表的なものが研修です。普段の仕事の中では得られない最新の知識や新しい視点を得たり、これまでの実践を裏付ける根拠を学んだりするインプットが主の学び方です。ただでさえ人手不足で忙しい中、保育から離れて時間を使うことは、園にとっても職員にとっても負担に感じるものですが、人材育成をする上では欠かせない学びですから、ここ数年のオンライン化を上手に活用して負担を軽減しながら取り組みましょう。

ほとんどの保育園では年間の研修計画を立てていると思いますが、効果的なOff-JTのためには、研修体系を作成することをお勧めします。研修体系はキャリアパスに沿ったものが一般的で、自園で成長していく過程を見える化したものです。1年単位ではなく、新人から管理職レベルになるまで長期的かつ見通しを持った研修計画の大枠とも言えるでしょう。

保育園の研修体系のヒント

  • キャリアパスに沿って考える
  • 階層別(新人、中堅、リーダー等)に分けてその階層の時に必要な学びを考える
  • 職種別(保育士、栄養士、看護師等)に分けて専門性を高める学びを考える
  • 研修案内のあるテーマに限らず、保育業界に限らず、必要なテーマの情報収集をする

保育園では園内の全職員研修が重視される傾向にありますが、全職員一斉に学ぶことを目的とするとテーマによっては広く浅い内容になることも事実です。外部で開催される集合研修においても、シフト的に行けそうな職員が行く、という園も少なくないでしょう。研修を受ける目的と対象を明確にし、そのためにはどのように学ぶのが効果的か考え研修を企画しましょう。

効果的な研修の企画例

  • 新任の職員(新卒・中途)に対して、園の考え方や基本的なマナーなどを覚えてもらうための学び
    → 園内での新任研修
  • 近い将来リーダーを担ってほしい層に対して、マネジメント力を向上させるための学び
    → 次世代リーダー研修
  • いずれ後輩ができる若手の職員に対して、OJTを担当してもらうための学び
    → OJT担当者研修、マネジメント基礎研修
  • 園全体として個人情報保護の意識が不足しているという課題を解決したい
    → 園内での全職員研修

③ 自己啓発

自己啓発とは、自ら学び能力を高めることです。専門書籍を読む、セミナーに参加する、資格を取る、学校に通う、コーチングを受けるなど手段はいろいろですが、学ぶための行動全般が自己啓発です。自己啓発は各々が自分の目的を持って自発的に取り組むものなので、園が強制するものではありませんが、自己啓発を組織が支援することは人材育成の方法の一つです。

支援として最も重要なのは、学び合う風土をつくることです。職場の同僚が当たり前のように自己啓発を行っている園では、私も何かやってみよう、と始めやすく継続もしやすいでしょう。

最初は、園として自己啓発を支援する方針を示し、園長やリーダーなどの影響力の大きい人から率先して取り組むことから始めてみてはいかがでしょうか。その上で、セミナー受講料や資格の受験料などの金銭的援助や、職員たちから学びたいテーマを募った研修企画を立てるなどの具体的支援を取り入れていくのも良いでしょう。

④ 人材配置

職員の人材配置も育成に影響があります。

役職(役割)の任命

立場が人を育てるという言葉がある通り、リーダーという役職に就いたり大きな行事の担当を任されたりすることで、自覚が芽生え意識や行動が変わり、その立場にふさわしいものになることがあります。もちろん本人の実力や周囲からの信頼があることが前提ですが、役割を自覚し期待に応えるために力を発揮した結果、自己成長につながるというものです。

受け持つクラス

保育園では一般的に年度ごとの担任制をとっています。年度末になると「来年度はどのクラスだろう」と保育士さんはそわそわしますよね。みなさんの園ではこの配置をどのように決めているでしょうか。複数担任 or 一人担任、乳児 or 幼児、担任同士の相性、正規職員とパート職員の兼ね合いなど検討材料はたくさんあるかと思いますが、人材育成の観点もぜひ取り入れてほしいところです。

  • 〇年以内にすべてのクラスを経験している状態にする
  • 〇年を目処に複数担任のクラスの主担任ができるようになる
  • 〇年に1回、5歳児クラスの担任をやり遂げる
  • 新人はどの順番で担任をすると早く仕事を覚えられるか
  • 幼児(乳児)クラスのエキスパートを育てる

など、どう成長してほしいのかに合わせて自園の人材育成方針を明確にしておくと、人材配置も育成の手助けになります。

保育園は職員の長期的な育成計画を立てよう

人生100年時代と言われる時代になり、定年退職の年齢を変更したり再雇用の制度を作ったりしている園も多いことでしょう。一般企業でも一つの会社で生涯勤め上げる、という時代では無くなりました。キャリアアップを目指して転職したり、これまでと全く違う職種へジョブチェンジをしたり、副業が当たり前になりつつあるなど仕事も選択肢が広がっています。子どもたちに「将来何になりたい?」と聞いたときに「サッカー選手とお花屋さんとYouTuber!」と答えが返ってきたとして、それが叶う時代です。

もしかすると、あなたの園にも保育士を辞めて違う仕事にも就いてみたいと思っている職員や、逆に現在会社員で保育士資格をとって保育園で働いてみたいと考えている人がいるかもしれません。そんな時にも、今の仕事で身につけた能力は基本的に無くなりません。人材育成は今いる組織で活躍する人材を育てるためのものですが、もっと大きな視点で考えれば、この社会で活躍する人材を育てることです。それは、未来を拓く子どもたちを育てる、保育の延長線上にあると思いませんか。

「今年の研修計画はどうしよう…」というところから少し視野を広げて、「私たちの園では、どんな能力が必要でそれはどのように身につけるか」という職員の長期的な育成計画を考えてみてはいかがでしょうか。

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