保育の仕事と人事評価|人事評価の納得性を高めるためのポイントを解説

投稿日:2023年10月27日

皆さまの保育園では、どのような人事評価を実施していますか?
保育園で評価といえば、保育の自己評価や第三者評価などもありますが、今回は人事評価の納得性について解説します。

保育園の人事評価では、たくさんの項目が並んだ評価シートを用いて年度末に自己評価や上司評価を行うことが多いようです。もちろん園ごとに実施方法は異なりますが、評価は自分自身の保育や仕事ぶりを振り返る機会にもなりますから、人材の育成を考える上で効果的な取り組みだと言えます。

しかしながら毎日忙しい保育の現場では、評価時期になると評価シートが配布され、時間に余裕のない中でバタバタと自己評価。遅れに遅れてなんとか上司評価までこぎ着けたものの、職員面談はしたりしなかったり…。そのような状況があちこちで見られます。
折角取り決めた評価の仕組み。大切な時間と労力をかけるのなら意義ある取り組みにしたいものです。
目次

保育園の人事評価における課題は何か

人事評価でよく聞かれる課題

  • 保育の仕事は定量化できないので評価が難しい
  • 何を基準にして評価したらいいかわからない
  • 公平に正しく評価できているか自信がない
  • 職員の自己評価と上司評価にギャップがある
  • 評価を行うことで職員のモチベーションが下がりそうで怖い
  • 職員一人ひとりの仕事ぶりが見えないので評価できない
  • 人事評価や職員面談に時間とエネルギーを割く余裕がない
  • 人事評価自体に意義を感じられない
さまざまな課題がありますが、特に多く聞かれるのは「保育の仕事は定量化できないので評価が難しい」こと。
成果を定量化できないから、そもそも評価することなどできない…。これは以前からよく言われていることです。

成果を具体的な数値に置き換えることが難しいので、評価基準はどうしても曖昧になります。

これは確かに評価が難しい理由のひとつです。ただし、数値化できない仕事は保育の仕事に限りません。いや、むしろ世の中には成果を定量化できない仕事の方が多いと言えます。
この「保育の仕事は定量化できないので評価が難しい」の意味するところは、可能な限り正確に評価したいという気持ちの表れだとも言えます。もちろんそれが間違っているわけではありませんが、人事評価が目指すべきゴールは正確であることだけではないように思います。

評価が上手くいかないのは評価項目に問題があるから?

評価が上手くいかないと、まず評価項目に問題があるのではないかと考えたくなります。もちろんそれもあるでしょう。
しかし多くの場合、もっと本質的なところに原因があることが多いようです。もし上手くいかないとしたらそれは項目のせいだけではないかもしれません。
人事評価を実りあるものにするために重要なのは双方の「納得性」です。少し乱暴な言い方かもしれませんが、納得感さえあれば正確であることはあまり重要ではありません。
正確に評価する、厳密な制度をつくるという考えが決して間違いだとは思いませんが、人間である以上、100%正確な評価が本当に可能なのだろうか?と考えると、それはとても難しいことです。
前述したように、保育の仕事は定量化が難しいというのが保育現場の共通認識だとすれば、正確に評価することは潔く諦めて、考え方を変えてみるのもひとつの方法です。さらにいえば正確であることが必ずしも効果的だとも限りません。

評価で大切なのは「納得性」

ここからは「納得性」を担保するための評価制度についてさらに考えてみます。
まず、前述した評価に関わる様々な課題を感じている方の多くは、評価という行為を上司が職員をジャッジ(審判)することだと考えているのではないでしょうか?もちろん評価にそのような側面があることは否定しません。

ただし、他人から評価されるのが心地いいと思う人はあまりいないのが事実であり、それは誰でも何となくわかっていることではないでしょうか。他人から評価を受ける場面では、自己防衛的になるのが普通の人のごく自然な反応です。
具体的には、自分を良く見せようとして実際よりも良い評価をつけてみたり、反対に謙虚になりすぎてとても低い評価をつけてみたりする例が考えられます。こうなってしまうと評価の意義は薄れてしまうでしょう。
また、人は感情の生き物ですから、既成概念や思い込みなどの心理的バイアスの影響を受けやすく、周囲の環境や仕事の状況次第で気持ちの浮き沈みもあります。客観的に正しく評価することが苦手な存在なのです。

職員がそうであるなら上司だって同じはずです。
上司だけが正確に評価できて、職員には難しいなどということはあり得ません。これらのことを踏まえて、上司が職員をジャッジ(審判)するという考え方を手放してみることが必要です。

人事評価における上司の役割とは

では、評価において、上司がジャッジ(審判)する役割を手放したら、一体何をすべきなのでしょうか?
上司の新しい役割は、職員の自己評価を支援するということです。

より具体的にいえば、保育士自身が自分の保育や仕事ぶりを振り返り、何が上手くいって、何が課題なのかを的確に捉えられるように支援することです。

人は自分で決めたことに対して責任を持つ生き物です。他人から言われるより、振り返りを通じて自分で気づいたことの方がモチベーションを発揮できます。
職員が自分自身の成長について主体的に考えて欲しいのであれば、自分で考える環境を整える必要があります。主体は評価を行う職員自身であり、上司の関わり方は審判ではなくコーチ役になります。

「納得性」のある評価制度にするために理解しておきたい3つのポイント

「納得性」のある評価制度にするための3つのポイントをご紹介します。

1. 人事評価の目的を明確にする
2. 運用を確実に行う
3. 経験学習サイクルを回す

1. 人事評価の目的を明確にする|人事評価は何のために行うのか?

人事評価の目的は何ですか?
賃金制度上の都合等なども含め、制度導入の直接的なきっかけは色々あると考えられますが、評価制度の導入目的が曖昧な例がとても多いようです。あるいは最初は明確な目的があったものの、運用を進めていくうちに当初の目的からずれてきたりすることもあるでしょう。
評価の対象となる職員の立場になって考えれば、目的不明のまま評価されるとしたら不安になって当然です。

組織における人事評価の目的として一般的に言われていることは3つあります。

人材の育成

ー人ひとりの人材がどうしたら活躍できるか、どのように育成するかを検討する

組織文化の醸成

評価や面談を通じて、組織が大切にする価値観を浸透させる

処遇の根拠

公平感のある処遇の分配のための根拠とする

つまり人事評価制度とは、組織が職員にどのような成長を期待しているのか、組織として何を大切にしているのかという価値観を具体的な言葉で表したものです。言い換えれば、組織が目指すところと、職員の成長のベクトルをあわせるものです。

評価の第一の目的は人材の育成であり、その先にある保育の質の向上です。
商品を扱うわけではない保育の仕事では、保育士一人一人の成長が保育の質の向上に直結します。
しかし、評価しさえすれば職員が成長するという簡単なものではなく、評価という「振り返る機会」を有効活用して人材の育成に繋げようというマネジメントの道具にすぎません。つまり人事評価はあくまでも道具のひとつにすぎないということです。
評価制度を実施運用する側である上司が目的を明確にすることはもちろんですが、評価がただの面倒な作業と映らないよう全ての職員と意義目的を共有して取り組むことが大切です。

2. 運用を確実に行う|人事評価の成否は運用が9割。小さくはじめてしっかり運用。

目的を明確にし、精緻な仕組みを構築しても、運用を継続できなければ意味がありません。はじめから複雑でスケールの大きなやり方を考えるより、小さくでも無理なく続けられるほうが成果に繋がります。

さて、運用の妨げになる障害があるとしたら何が考えられるでしょう?
保育園の場合、職員が相当数いたとしても、上司評価を園長一人だけが行う場合が多いようです。
評価においても職員一人ひとりの仕事ぶりが見えていなければ、事実に基づいた評価を行うことが難しくなります。そうなると、何となくの「印象」で評価するしかありません。
それでも多人数を評価しなければならない場合は、次のポイントに配慮して下さい。

評価する人数を絞る

組織マネジメントでは「統制範囲の限界」という言葉があります。
これは、どんなに優れたリーダーでも管理する部下の数が7名を越えると管理能力が著しく低下するというもの。この理論に習えば園長は余裕で限界を越えているといえます。
できることなら、評価の対象となる職員に普段から関わっている先輩職員が評価に関わるようにするなど、評価業務における役割分担を目指したいところです。
印象評価を避け、納得感のある評価を行うには、無理のない人数での評価を行うことが大切です。

事実情報を集める

できるだけ客観的な視点での評価を心掛けるのは当然ですが、評価は人の「主観」です。評価者も人間である以上、その見方には多かれ少なかれ偏りがあることは避けられません。
園長一人が評価者である場合はとくに、評価するための材料となる「事実情報」を持っていないことが多いので、「何となく」○○さんは頑張っていたという印象での評価になりがちです。
「何となく」の印象で評価すると納得性が担保できません。

では、主観で評価を行いつつも、可能な限り納得性を担保するためにはどうしたらよいでしょうか。
これは実際にあった話です。
ある会社の女性マネージャーが部下も忘れているような出来事や成果について面談で「事実情報」をもとにフィードバックできるよう、メモや付箋に残して忘れないようにしているそうです。評価や面談の時期になるとその記録を見て、このことを承認したい、何をフィードバックしようかと検討するのだそう。記録はすべて「事実情報」なので、言葉に納得感があるのは言うまでもありません。
本人すら忘れていたようなことを上司が覚えていて承認してくれる。このように自分を見てくれている上司からのフィードバックは、例えネガティブ情報であっても受け入れやすいでしょう。
ただし、これらは普段からの関わりがあってのこと。普段は無関心で、評価や面談のときだけフィードバックするのとはまるで違います。

3. 経験学習サイクルを回す|評価や面談を通じて、職員の主体的な振り返りを支援する

評価は定点観測のようなものです。
人は経験を通じて能力が向上します。しかもただ経験するだけではなく、経験したことを内省し、そこから気づきを得て次の機会に活かしてみる。その繰り返しが成長を促進します。人材育成の分野では、これを経験学習サイクルと呼びます。

【経験学習サイクル】

評価制度は、一定期間ごとに評価を行うことで普段の保育と仕事ぶりを内省することを職員に促します。内省とは振り返りです。

このサイクルが回ることで経験から得られる学習がより大きくなります。仕事を通じた成長を促進するために、評価という道具を上手に活用して人材育成に繋げることが人材育成における評価のねらいです。

また、この振り返りの間隔はできるだけ短い方が効果的とされています。
しかしだからといって人事評価を毎日実施するのは現実的ではありませんが、自己評価とまではいかなくとも、今日の自分の仕事を振り返るだけでも色々と気づくことはあるはずです。
人事制度としての評価は、職員自身の日常的な振り返りをより効果的なものにするために、一定期間ごとに他者が関わることで客観的な視点を得ることができ、より深い気づきに繋がるというメリットがあります。

一方で、私たちは人から評価されることには余り慣れていません。上司の主観で納得感に乏しいジャッジ(審判)をするよりも、職員が自分の強みや課題を見つけ、自分の成長を自分で考えられるよう、職員が行う自己評価の適正化に向けた関わりを考えることが重要です。言い換えれば、職員が自分事として評価に参加する環境をどうつくるかが大切です。


また、保育園の多忙な毎日を目の前にするとペーパーによる評価だけで済ませたくなりますが、育成面談も可能な限り行いたいところです。対話を通じて評価シートには記されていない真意や事実をはじめて知ることもあるからです。

評価とは職員と上司が一緒につくりあげるもの

ジャッジ(審判)するという考え方を手放せば、違う景色が見えてきます。
上から評価するという一般的に認知されている評価を改め、職員自身の内省を支援することだと考えてみる。
職員と上司が結果を一緒につくり上げる感覚になることができれば、評価に対するネガティブな印象は無くなります。
もちろん、そのためには職員の成長に上司が関心を持つこと、人事評価以前に普段の関わりが重要であることは言うまでもありません。
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