保育園における3種類の評価|評価の目的は保育の質の向上に他ならない

保育園の評価,PDCAサイクル,評価の目的,保育の質の向上

あなたの保育園では、”評価”を実施していますか?

と聞かれたら、ほとんどの園が「YES」と答えるでしょう。
では、”評価”と言われて思い浮かぶのはどんな評価ですか?と聞かれたらどうでしょう。

「自己評価」 「能力評価」 「第三者評価」 「学校評価」 「人事評価」

園によってバラバラの答えになるのではないでしょうか。このように、保育業界における「評価」という言葉は定義が広く、色々な場面で使われています。
今回は、評価について整理し、自園に必要な”評価”について考えていきましょう。

目次

なぜ、保育園で評価の実施が求められるのか

結論から言えば、保育園における評価の大きな目的は「保育の質の向上」に他なりません

保育の質とは何か、についてはここでは触れませんが、保育の質という形のないものを捉える材料が評価といえます。子どもたちが無限の可能性を秘めた存在である以上、保育にも絶対的な正解やゴールはありません。現状を把握し改善を重ねる、この繰り返しによって掲げる理念の実現につなげる=子どもたちにとってより良い保育が提供できると考えられます。

つまり、評価を実施することが重要なのではなく、その結果を質の向上に活かす「改善」が求められているのです。そして、子どもたちの育ちに大きな影響を与える保育という社会的意義のある仕事だからこそ、見える化も求められています。「私たちの園では質の高い保育を提供している」その根拠となるのが評価とも言えるでしょう。

保育園における評価の基本的な考え方|PDCAサイクル

仕事の進め方の基本的な流れは、Plan(計画)→ Do(実践・実行)→ Check(振り返り)→ Action(改善)に沿って行われます。そしてこれを繰り返すことから、頭文字をとってPDCAサイクルと呼ばれています。

PDCAサイクル
PDCAサイクル

Plan(計画)

目標・ねらいを設定し、実行のための具体的な計画を立案します。

ここで重要かつ難しいのは目標の設定です。数値で表すような明確な成果を持たない保育という仕事では、目標やねらいを適切に設定できることが課題となります。

そして、計画にはCheck(評価)することを予め盛り込んでおきましょう。どのタイミングでどのような方法でどの部分を評価するのか、これを意識することで計画を論理的かつ具体的に立案できるようになります。

また、園全体やチームで策定する計画の場合「だれが」を明確に決めることが必要です。みんなで実行するのはもちろんですが、この計画が遂行されることを管理する責任者を決めないと、誰かがやってくれるだろうという心理がはたらきます。

Do(実践・実行)

計画を実行に移し、それを記録します。

ここでは、計画に盛り込んでいる評価がしやすいような記録をつけることが望ましいです。そして実践する人の姿勢として、目の前の作業をこなすのではなく、目標につながっている仕事だと意識することが重要です。

Check(評価)

実行した内容の振り返りと分析を行います。

計画通りにできたのか否か、その理由は何か、事実に基づいて検証します。明確な理由がわかることばかりではないので、その際は仮説を立てていきます。

評価というとマイナスイメージを持たれがちなのは、この評価段階が批判や反省を伴うことが多いからでしょう。ここで評価するのはあくまで「計画」と「実行内容」です。”人”についてはいったん置いておいて、客観的な振り返りを行いましょう。計画の責任者や実行者を主語にした振り返りは、感情的な意見を引き出したり、意見が言いづらくなったりするので注意が必要です。

Action(改善)

振り返りによる検証結果から、今後の改善点を検討します。

Checkの段階で分析や仮説が不十分だったり抽象的だったりすると改善案や対策を考えるのが難しくなります。なかなか改善案が出ないようなら、Checkをやり直す必要があるかもしれません。一方で、検証結果に捉われすぎるのも問題です。改善の目的は「より良くなること」なので、まったく異なる視点やアイデアも重要です。

改善案にも正解はありません。Checkで得た仮説を試してみる、新しい発想で可能性を模索する、これが次のPlanにつながります。


私は失敗したことがない。
ただ、1万通りの、うまくいかない方法を見つけただけだ。

トーマス・エジソンの名言と言われている言葉です。CheckとActionの大切さを教えてくれています。

PDCA,レベルアップ
PDCAサイクルを回せるようになると、同じところをぐるぐる回るのではなく、螺旋階段を登るようにレベルアップしていけるようになります

【評価内容別】保育園における3種類の評価

保育園で行われる「評価」には、その主体(誰が評価を行うのか)や対象(何を評価するのか)、 主な用途(評価の結果をどのように活用するのか)によって、様々なものがあります。ここでは、対象(何を評価するのか)によって3種類の評価に整理して考えます。

自己評価ガイドライン,保育園の評価の種類
(参考)保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)

保育内容等の評価

2020年に改訂された「保育所における自己評価ガイドライン」で求められている評価です。
自園の保育を多角的な視点で振り返り、より良い保育につなげることを目的としています。ですから、評価の結果が実際に保育の改善や充実に生かされることが重要であり、このことについて全職員が理解を共有した上で取り組むことが求められます。保育士による保育の自己評価や園評価、保護者による園評価、評価機関の第三者評価などがこれにあたります。方法は限定されておらず、チェックリストでもアンケートでも職員会議のような形でも構いません。ただし、どう評価して改善に繋げるのかという取り組みを公表することが推奨されています。

施設の運営管理(財務・労務管理の状況等)の評価

保育園が適切に管理・運営されているか、法令や一定の基準に照らして点検・確認し、改善すべき事項についての情報を利用者や地域に公開するものです。
努力義務とされている福祉サービスの第三者評価では、前述の保育内容の評価と合わせて評価項目に含まれているので評価機関の第三者評価を受審することで2種類の評価を一度に実施することができます。公的資金によって運営されている保育園という施設だからこそ、運営の透明性確保が求められていると言えます。また、人手不足が深刻な保育園において、今いる職員の業務負担の軽減や人材を確保していくための労働環境の整備等も重視されています。

職員の人事評価(業務の遂行に関わる行動・能力)

保育園に勤める職員が自分の行動や能力を評価し自己研鑽や能力向上に努めるものです。園としては人事考課の際に参考にすることもあります。
保育の質の向上には、保育士をはじめとする職員の資質向上が欠かせません。保育の経験を積むだけでなく研修などによる自己研鑽を重ね、どうスキルアップしたのかを確認するのが人事評価です。自園での成長の道筋となるキャリアパスと合わせて実施することで、園として成長してほしいと考える方向性と本人の努力の方向性を一致させながらスキルアップを支援することができます。職員のモチベーションアップを目的とした承認の機会としての人事評価を実施する園や、「頑張っている人を頑張った分だけ評価したい」と人事評価を賃金制度と結びつける園も増えてきています。活用方法はいろいろですが、職員の人材育成を目的とし、その先には保育の質の確保・向上があります。


これらの評価は、それぞれ全く別のものとしてではなく、一部重なりがあったり互いに関連し合ったりしながら実施されるものです。

保育園の評価実施の前に検討すること

何のために評価するのか(評価の結果を何に使うのか)

自己評価ガイドラインが改訂されてから、監査でも「自己評価していますか」と以前よりチェックされるようになったという話をよくお聞きします。ですが、評価を実施すること自体が目的にすり替わらないよう注意しましょう。大切なのは自己評価をしているということではなく、保育の改善につながるような取り組みのために自己評価という手段をとっているということです。

誰が何を評価するのか(主体と対象を明確にする)

保育内容等の評価であれば、保育士自身が自分の保育を評価することも、他クラスから評価されることもあるかもしれません。園全体の今年のテーマのようなものがある園なら、それ自体を全職員で評価することもあるでしょう。特色のある保育であれば外部の専門家から客観的に評価してもらうこともできます。評価の目的に照らし合わせ、誰に評価してもらうことが適切なのか、どの部分を評価してもらうのかを明確に決めておきましょう。評価の内容が改善のための分析や検証の手がかりとなるので、有効な材料を集めることが必要です。

また、評価の目的や何を評価するのかについて、評価をする主体の人が予め知っておくことも効果的です。例えば、保護者にアンケートを取るという場合も、事前にそのことを知っていれば見る視点も変わるでしょう。より具体的な意見が欲しいのであれば、アンケート項目も事前に知らせておくことで保護者はチェックポイントが明確になるので評価はしやすくなります。ただし、行事などを純粋に楽しんでもらいたい、普段の保育を意識せずに見てもらってどういう意見が出るかを知りたいなど、目的によっては事前に知らせない方が評価として適している場合もあります

保育園の評価のポイント

ポイント1:全職員の共通理解

保育園で評価に取り組む際、評価の目標・ねらいを全職員が同じように理解している必要があります。

私たちはこのためにこの仕事に取り組むんだ、と自分ごととして捉えることは保育を実践する上で重要な姿勢です。また、評価においても園としての評価基準(何が良いとされるのか)の認識を揃えることで、職員間の意識のギャップを埋めることができます。もし評価方法の一つとして既存のチェックリストのようなものを使用される場合には、その項目の文章の捉え方も共通認識を図ることをお勧めします。同じ言葉を使っていても同じ意味に受け取るとは限りません。一見面倒なようですが、共通認識と共通言語を持つことは、組織文化の醸成にもつながります。

ポイント2:計画的・継続的に取り組む

保育に計画は欠かせませんが、PDCAサイクルのPlanとDoだけの反復になってしまっているという課題もよく聞かれます。保育計画と保育実践、そして振り返りという流れまではセットで実施されていると思いますが、その振り返りが適切に実施されないと次の改善につながりません。ですから、評価と改善までを含めた計画的な取り組みが必要です。そしてそれを継続しましょう。継続とはPDCAサイクルを回し続けることです。1年単位の大きなサイクルだとすれば、3年、5年と取り組みを続けましょう。最初のサイクルで見えてこなかった課題や逆に園の強みがわかるかもしれません。年度ごとに取り組みを変えるのではなく、評価内容に合わせて定点観測も必要です。

例)
毎年度末に保護者アンケートを実施する
3年に1回、第三者評価を受審する
・職員評価の面談を半年に1回実施するために面談週間を設ける

評価を活用して保育の質の向上につなげよう

保育園における評価はさまざまな種類がありますが、少し整理できたでしょうか。一つの目的に対して一つの方法、と単純化はできませんが、最終的には目指すのは保育の質の向上です。この記事が皆さんの園で取り組んでいる評価の見直しや、これから取り組みたい評価を検討するヒントになれば幸いです。

評価と言っても何から取り組んでいいか分からないという園は、まずは普段の保育で基本のPDCAサイクルを回すことから始めてみましょう。忙しくて計画を立てることもままならない、という園は、第三者評価の受審を申し込んでみることもお勧めです。準備は大変ですが、その取り組み自体がPDCAサイクルを回すことになります。

評価の先にあるAction(改善)に着目して、保育の質の向上に向けた評価の仕組みを作りましょう。

目次