園のミドルリーダーに求められるのは「役割」ではなく「機能」である|なぜミドルリーダーを「任命」するだけでは不十分なのか

投稿日:2026年4月24日
前回のコラムでは、令和8年度にこども家庭庁が新設した「保育士等のミドルリーダーの活躍による保育の質向上推進事業」を取り上げ、「量から質へ」という保育政策の転換のなかでのミドルリーダー育成の位置づけについて解説しました。
今回のコラムでは、ミドルリーダーを「役職」ではなく「機能」として捉え直す視点を提案します。
政策が期待する役割と、現場で起きているギャップ
まず、この事業において、ミドルリーダーに何が期待されているかを確認しておきます。
各園ひいては地域全体の保育の質向上に向けて、園内研修や公開保育等の取組の中核を担うことが期待されるミドルリーダー保育士の育成や活動に係る費用等を補助する仕組みを創設
出典:こども家庭庁「令和8年度予算概算要求の概要(主要施策集)」(令和7年8月)
こども家庭庁の文書から読み取れるミドルリーダーへの期待は、大きく4つに整理できます。自園での園内研修や公開保育の企画・実施、他園への支援、園や保育士同士が学び合う取組の推進、そして地域全体の保育の質向上の中核を担うこと——です。
一方、現場で私たちがよく耳にするのは、次のような声です。
「ミドル本人がどう動けばよいかわかっていない」
「任命したものの、実質的には担任と変わらない」
「任せたいと思うが、誰もやりたがらない」
この文書で期待されているレベルと、現場で起きていることの間には大きな開きがあります。
このギャップの本質は何か。それは、役職を与えることと、機能が発揮されることは別物であるということです。
「副主任」や「フロアリーダー」といった役職を任命し、キャリアアップ研修のマネジメント分野を修了したからといって、それだけでミドルリーダーが機能するわけではありません。ここから先、「機能する」とはどういうことかを掘り下げていきます。
ミドルリーダーの中核は「つなぐ機能」である
ミドルリーダーという言葉はもともと曖昧です。「園長と一般職員の中間にいる人」という以上の定義が、保育現場全体で共有されているわけではありません。
しかし、私たちが現場を見てきたなかで「ミドルリーダーが機能している」と実感できる園を振り返ると、そこには共通するものがあります。それは、ミドルリーダーが何かと何かを「つなぐ」役割を果たしているということです。
つなぐ対象は、大きく5つに整理できます。
① 縦のつなぎ(園長・主任と担任)
園長の方針や意図を現場が理解しやすい言葉に翻訳。逆に現場で起きていることを上にに届ける。この双方向の橋渡しが、組織の意思疎通を支えます。
② 横のつなぎ(クラス間・学年間)
クラスの中で閉じがちな情報を、園全体で共有できる形にしていく。子どもの姿や保育者の困りごとを、他クラスや他の学年と共有する場をつくる役割です。
③ 理念と実践のつなぎ
園の保育理念や全体的な計画を、日々の保育の具体的な場面に落とし込む。抽象的な言葉で書かれた理念を、実際の子どもとの関わりに翻訳する役割です。
④ 世代間のつなぎ(経験者と若手)
経験豊富な保育士が持つ実践知を、若手が吸収できる形で伝える。同時に、若手の新しい視点や感覚をベテランにも届ける双方向の流れをつくります。
⑤ 園内外のつなぎ(保護者・地域・他園)
保護者対応、地域や関係機関との連携、他園との学び合いなど、外部との接点を担う役割です。
ここで重要なのは、これら5つすべてを一人で担うスーパーマンを求める必要はないということです。園の規模や職員構成によって、特にどの「つなぎ」が必要なのかは変わります。自園にとって今どの機能が不足しているのかを見極めること——これが、機能としてミドルリーダーを捉える出発点です。
ミドルリーダーが「機能しない」と何が問題なのか
「機能している」とは何かを論じる前に、「機能しない」と何が問題なのかを整理したほうがわかりやすいかもしれません。
私たちが現場でよく目にするのは、次のような状態です。
- 園長への一極集中
判断も相談も、すべてが園長に集中。園長でなければ決められないことが多すぎて、園全体を俯瞰する時間も取れない。 - 若手の孤立
新任や若手の保育者が困ったとき、気軽に相談できる相手が周りにおらず直接園長に。しかし園長は忙しく、気軽には声をかけにくい。結果、若手が悩みを抱えたまま動けなくなる。 - 情報のクラス内閉塞
各クラスで起きていることが、そのクラス内で完結してしまう。隣のクラスで何が起きているか、他学年がどんな実践をしているか、互いに見えない状態。 - 方針の不浸透と現場の孤立感
園長が打ち出した方針が、日々の保育に反映されない。逆に、現場で保育者が感じている違和感や気づきも園長にまで届かない。 - 「役職はあるが実質プレイヤー」状態
「○○リーダー」という役職はあるものの、実際には現場の保育に追われており、園全体を見る時間がない。あるいは、任命されているものの機能としては担任と変わらない。
これらの状態が続けば、園長に負担がかかるだけでなく、チームとしての成長が促進されません。
裏を返せば、これらが起きていないことが「ミドルリーダーが機能している」ということです。そして、これらを一つずつ解消していくことこそ、園長がミドルリーダー育成に取り組む意味なのです。
機能を園内に根付かせるために園長ができること
では、園長として具体的に何に取り組めばよいのでしょう。とくに重要なのは、次の3点です。
❶ 役割を「言葉化」するのは園長の仕事
ミドルリーダーが動けない最大の理由は、本人が「何を期待されているか」を明確に理解していないことです。
「主任の次のポジションだから」「経験年数的にそろそろだから」——こうした任命理由だけでは、本人は動きようがありません。園長自身の言葉で、「あなたにこういう機能を担ってほしい」と伝えることが役割を担うための出発点になります。
さらに言えば、担任からミドルリーダーに役割が変わる節目では、多くの保育者が葛藤を抱えます。「子どもと直接関われなくなることに、自分の存在意義を見失いそうになる」——これは私たちが現場でよく耳にする声です。新しい役割に意味があることを園長が言葉にして支えることは、本人のアイデンティティの再構築を助けるうえでも欠かせません。
❷ 「誰を任命するか」ではなく「どの機能を誰に担ってもらうか」
一人のスーパーミドルを育てようとすると、適任者の不足に悩み続けることになります。発想を転換し、「機能を分解して複数人で分担する」視点を持つことが大切です。
例えば、縦のつなぎが得意なAさん、若手育成に力を発揮できるBさん、外部との連携が得意なCさん——といった具合に、5つの機能を園内の複数の職員で分担する考え方です。小規模園では兼務、中規模園以上では機能別の役割分担、というふうに園の実情に合わせた柔軟な設計も可能になります。また、この方法にはミドルリーダーの役割に対するハードルを低くするメリットもあるでしょう。
役職の数より、園内で必要な機能が誰かによって担われている状態をつくることがポイントです。
❸ 世代から世代へ。バトンをつなぐミドルリーダー育成
今いるミドルリーダーの動き方そのものが、次のミドルリーダーを育てる教材になります。若手は、先輩ミドルリーダーが日々どう振る舞っているかを見て、「ミドルリーダーとはこういうものだ」というイメージを形成していきます。
だからこそ、ミドルリーダー育成は、一時的な研修や個人の努力の問題ではなく、組織のキャリアパスとして設計する必要があります。誰かを一人育てるという「点」の発想ではなく、世代から世代へとバトンをつないでいく「線」の発想です。
この視点に立つと、「今のミドルリーダーが機能していないこと」の影響は、目の前の現場だけでなく、次世代の育成にまで及ぶことが見えてきます。
おわりに:ミドルリーダーが機能すると、園が動き始める
ミドルリーダーが機能し始めた園には、共通する変化があります。若手が「これ、ちょっと聞いてもいいですか」と声をかけられる相手がいる。あるクラスの工夫が、翌月には隣のクラスにも届いている。園長が目の前の対応から一歩引いて、園全体の方向性を考える時間を持てている——。
こうした状態は、特別な人材がいるから生まれるのではなく、園のなかで「機能」がきちんと働いているから生まれます。そしてそれは、役職を新しく置くことからではなく、園長自身が「今、自園に何の機能が足りていないか」を見立て、それを担ってほしい人に言葉で伝えるところから始まります。
ミドルリーダーは「役割」ではなく「機能」です。肩書きを置くことではなく、機能が園のなかで発揮される状態を作ることこそが、保育の質を支える組織づくりの核心です。
執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)
株式会社ネクサスは、保育施設に特化したキャリアパス設計・人材育成支援を行っています。
計画的なミドルリーダー育成の具体的な進め方については、お気軽にご相談ください。

