保育園の賃金制度の作り方|能力・経験・役割に何で報いるか、処遇改善の区分1・2・3をどう組み込むか

投稿日:2026年10月23日
保育園の賃金制度は、処遇改善の仕組みが新しくできるたびに、その都度対応を重ねてきたものが少なくありません。言ってみれば、増築を重ねた旅館のようなものです。もとの制度に継ぎ足しながら、全体の形をなんとか保っているというのが、多くの園の賃金制度の実情だと思います。
2025年度(令和7年度)に処遇改善等加算が一本化され、2026年度(令和8年度)からは区分3のキャリアアップ研修の修了要件が本来の形で適用されています。制度の土台が整理されたいま、園として一本筋の通った賃金制度を形にするのによいタイミングです。
給与の水準は、もちろん大事です。ただ、職員から「私の給与は、何を基準に決まっているのですか」と聞かれたとき、勤続年数のほかに答えられる根拠があるでしょうか。私たちが制度設計の支援で向き合ってきたのは、多くの場合こちらの問題でした。
その根拠を一つの考え方でまとめたものが、賃金制度です。基本給をどう決めるか、毎年どう昇給するか、どんな手当をどんな条件で支払うかを、等級や役割、評価などに基づいて決める仕組みです。給与規程(賃金規程)は、こうして決めた中身を就業規則の一部として文章にしたものです。
このコラムでは前半で、処遇改善等加算とこども家庭庁の通知が賃金について求めていることを整理します。後半では、能力・経験・役割にどう報いるか、区分1・2・3をどう組み込むかについて、私たちネクサスの考え方をお伝えします。
処遇改善等加算は「賃金体系の改善」を目的にしている
処遇改善等加算の通知は、区分1・区分2・区分3の目的を、次のように記しています。
賃金体系の改善を通じて「長く働くことができる」職場環境を構築し、もって質の高い教育・保育の安定的な供給に資するものとすること。
出典:こども家庭庁成育局長・文部科学省初等中等教育局長「施設型給付費等に係る処遇改善等加算について」(令和8年4月8日最終改正)
通知は、区分ごとに加算額の使い道も定めています。
| 区分 | 通知に書かれている使い道 |
|---|---|
| 区分1(基礎分) | 職員の賃金の勤続年数等を基準として行う昇給等に充てる |
| 区分2(賃金改善分) | 園が決める範囲の職員に対し、基本給・手当・賞与または一時金等のうちから改善する項目を特定して改善する |
| 区分3(質の向上分) | 副主任保育士等と職務分野別リーダー等に対し、役職手当・職務手当など職位・職責・職務内容等に応じた、決まって毎月支払われる手当または基本給で改善する |
あわせて、設計のうえで外せない条件があります。区分2と区分3を合わせた改善額のうち2分の1以上は、基本給か決まって毎月支払われる手当で改善すること。改善に使った賃金の項目は、名称や内訳を明確に管理すること。改善を行う項目以外の賃金の水準を下げないこと。また、人事院勧告による公定価格の人件費の増額分も、その全額を職員の賃金の改善に充てることとされています。

国の通知は「給与表や給与規程の見直し」を推進している
区分2の支払い方について、通知には次の一文があります。
手当や一時金等については、基本給の引上げや定期昇給の増額等に段階的に反映していくことが望ましく、給与表や給与規程の見直しを推進すること。
出典:こども家庭庁成育局長・文部科学省初等中等教育局長「施設型給付費等に係る処遇改善等加算について」(令和8年4月8日最終改正)
区分2を手当や一時金で支払っている園は多いと思います。通知は、それを基本給や定期昇給へ段階的に反映していくことを望ましいとし、給与表や給与規程の見直しを進めるよう求めています。
賃金体系そのものの整備は、区分1の要件(キャリアパス要件)に定められています。職員の職位・職責・職務内容等に応じた勤務条件と、それに応じた賃金体系を定め、就業規則等の書面で整備したうえで、非常勤職員を含む全職員に周知すること。さらに、区分2と区分3の要件として、賃金改善の具体的な内容を職員に周知することも定められています。

給与の決め方は、職員にも園の外にも説明するものになっている
経営情報の見える化によって、施設ごとに「モデル給与」が公表されるようになりました。子ども・子育て支援情報公表システム(ここdeサーチ)の入力要領では、モデル給与を「賃金規定等の根拠に基づき、職種や経験年数等の属性に応じてモデル化された給与額」と定義しています。賃金規定等の根拠に基づく給与額が、園の外にも公表されるようになったということです。公表の仕組みと、速報値でわかった全国の実態は、下記の記事でまとめています。

一方で、私たちがこれまでご相談を受けてきた園では、次のような状態をよく目にします。
- 就業規則に「能力と経験に応じて昇給する」と書いてあるが、能力と経験が何を指すかは決まっていない
- 昇給は一律で、頑張っても周りとの差がつかない
- 給与表はあるが職員に示しておらず、職員は自分の給与がどう決まったのかを知らない
- 旧加算の時代の手当が積み重なり、どの手当が何への対価なのか説明できない
どれも、何に報いる給与なのかが決まっていないことから起きています。その背景には、加算や制度が変わるたびに手当を継ぎ足してきた経緯があります。給与の水準を上げるだけでは、この状態は解消しません。必要なのは、根拠を持って職員に説明できる賃金制度です。
ネクサスの考え方|保育園の賃金制度はキャリアパス制度と一体でつくる
私たちネクサスは、賃金制度を単独で設計することはしません。賃金は、園が職員の何に報いるのかを、金額で表したものだからです。
職員に何を期待するのかは、等級と役割で決まります。その期待に向けて成長できるよう、研修などの学びの機会を用意し、評価で成長を振り返ります。賃金は、こうした積み重ねの上で、職員の成長と貢献に報いる仕組みです。順番を逆にして賃金表だけを先に作ると、金額の根拠が不透明になります。
現場で使われていない制度を見ると、等級・評価・賃金がそれぞれ別々に作られていることが少なくありません。キャリアパス制度が形だけになる原因は、下記の記事で整理しています。

保育園の賃金制度は、能力・経験・役割の3つを柱にする
賃金で報いる対象は、ほかにもいろいろあります。ただ、保育園の賃金制度の土台になるのは、能力・経験・役割の3つだと私たちは考えています。それぞれに、報いるための賃金の要素を一つずつ対応させます。

能力に報いる|基本給を等級ごとの範囲で決める
基本給は等級に紐づけ、等級ごとに上限と下限のある範囲(レンジ)で持ちます。経験を重ねた職員の昇給を続けられるよう、上下の等級の範囲は一部を重ねておきます。能力が上がって昇格すれば、基本給の範囲が一段上がります。
等級と役割は、切り分けて考えます。等級は能力の段階です。役職に就かなくても、能力が上がれば昇格できます。逆に、範囲の上限は、昇格しないまま給与だけが上がり続けることへの歯止めにもなります。
等級の考え方そのものは、下記の記事で詳しくお伝えしています。

経験に報いる|毎年の昇給で経験の積み重ねを表す
私たちは、年功的な昇給を否定しません。保育の専門職は、経験を重ねることで専門性を高めていく仕事だからです。毎年の昇給は、その積み重ねに報いるものです。基本給の範囲の中で、毎年の昇給(号俸の昇給)を続けます。
経験による昇給と、能力による昇格は分けておきます。経験は年数で測れますが、能力は評価で確かめるものです。毎年の昇給は経験の積み重ねを、昇格は能力の伸びを表します。二つを分けておけば、経験を重ねた職員が報われない状態も、成長しても給与が変わらない状態も避けられます。ただし、昇格は年数では決めません。
経験の報い方は一つではありません。基本給とは別に、経験年数に応じた手当で表している法人もあります。どちらを選ぶにしても、経験に報いる部分がどこなのかを、職員が見て分かるようにしておきます。
役割に報いる|役職手当は任命と連動させる
主任・副主任・専門リーダー・職務分野別リーダーといった役割には、役職手当で報います。役職手当は、園が任命した人にだけ付け、役を外れたら外します。
同じ役職であれば、手当は同じ額にします。同じ副主任のあいだの能力の差は、手当ではなく基本給(等級)で表します。役割は手当、能力は基本給と分けておくことで、職員ごとの給与の違いを要素ごとに説明できるようになります。
評価と賃金は、連動させながら距離を置く
判断に迷う部分ではありますが、評価と賃金は、つながっていることが望ましいと考えます。ただし私たちは、評価の結果がそのまま給与の額に反映される仕組みはお勧めしていません。
私たちがお勧めするのは、評価を昇格の条件の一つとして使う形です。評価だけで昇格するのではなく、あくまでも条件の一つが整うという意味です。評価に加えて、研修の修了や役割の経験といった条件がそろって昇格し、昇格によって基本給の範囲が上がる。評価と給与のあいだに、昇格という段階を一つ置くということです。

距離を置くことには理由があります。保育の仕事は、売上のように成果を数値で測れるものではありません。そのうえ保育の現場では、「評価=お給料」と受け止められると、評価そのものに抵抗が生まれやすくなります。評価面談が給与を決める査定の場になると、職員と成長について話し合うという本来の目的が薄れてしまいます。評価は給与を決めるための査定ではなく、次の段階へ進む条件が整ったかを確かめるものです。 評価の結果で毎年の昇給額を変える設計もありますが、私たちはこの距離を保つほうがよいと考えています。
評価項目の決め方や段階の付け方は、下記の記事で解説しています。

処遇改善等加算の区分1・2・3を、賃金制度に組み込む
能力・経験・役割の3つの報い方を、処遇改善等加算の区分1・2・3とつなげると、次のようになります。
区分1は、経験に報いる部分に組み込みます。通知は区分1を、目的では「職員の平均経験年数の上昇に応じた昇給」、使い道では「勤続年数等を基準として行う昇給等」としています。毎年の昇給(号俸の昇給)の原資として、給与表の設計と紐付けます。
区分2は、職員全体の水準を底上げする部分に組み込みます。手当や一時金で支払っている場合は、通知が望ましいとしているとおり、等級ごとの給与表の水準へ段階的に組み込んでいきます。基本給に入れば、昇格や毎年の昇給と同じ仕組みの中で説明できます。
区分3は、役割に報いる部分に組み込みます。副主任保育士や職務分野別リーダーなどの役職手当として、任命と連動させます。通知も、区分3は役職手当・職務手当などの毎月の手当か基本給で支払うとしています。
上記は「こうしなければならない」というものではなく、賃金制度の考え方と処遇改善の使い道をつなぐための、一つの整理です。
旧加算の時代の手当が名称を変えずに残っていたり、処遇改善の分が基本給に混ざって切り分けられなかったりする園では、新しい給与表をいきなり作るより先に、何に報いるのかという基本的な考え方の整理から始めます。
賃金制度は、根拠を示して職員に説明する
賃金制度は、作ることより、職員に伝えることのほうが難しいものです。どれほど筋の通った制度でも、職員に伝わらなければ、納得にはつながりません。
新しい制度に移行するときは、職員一人ひとりの給与がどう変わるのか、なぜそうなるのかを、時間をかけて説明します。賃金表や賃金規程を配るだけでは不十分です。等級と役割、能力と賃金がどうつながっているのかを、言葉で丁寧に伝えていきます。
説明に必要なのは根拠です。等級によって基本給の範囲が決まり、任された役割によって手当が付く。給与の一つひとつにこうした理由を示せれば、職員は何を頑張れば給与が上がるのかを、自分で考えられるようになります。賃金体系を全職員に周知することは、キャリアパス要件の一つでもあります。
等級・役職・研修・賃金を1枚に並べたキャリアパス表は、こうした説明の土台になります。作り方は、下記の記事で紹介しています。

実際に制度を整え、根拠を持って職員に示せるようになった園の声を、下記のインタビューで紹介しています。

保育園の賃金制度でよくある質問
Q.給与規程のモデルを参考にすれば、賃金制度はできますか
給与規程のモデルは、規程の書き方の参考にはなります。ただ、職員の何に報いるのか(能力・経験・役割の重みづけ)は園ごとに違います。ひな形を借りてきただけでは、自園の等級や役職と合わない賃金体系ができてしまいます。規程のモデルを見る前に、等級と役割、そして何に報いるかを決めておくことをお勧めします。
Q.年功的な昇給は、やめたほうがよいですか
やめる必要はありません。経験には毎年の昇給で報い、能力には昇格で報いる形にすれば、年功の安定と成長の評価を両立できます。見直したいのは、給与が年数だけで決まり、それ以外の根拠がない状態です。
Q.処遇改善の手当は、基本給に組み込んだほうがよいですか
区分によって考え方が違います。区分2を手当や一時金で支払っている場合、通知は基本給や定期昇給へ段階的に反映していくことが望ましいとしています。区分3は、私たちの整理では役割に報いる部分です。役職手当など毎月の手当として、任命と連動させる形が分かりやすくなります。
Q.評価の結果をそのまま給与に反映したほうが、公平ではありませんか
評価の結果で給与の額を直接決める仕組みは、たしかに公平に見えます。ただ、保育の仕事は、売上のように成果を数値で測ることができません。子どもの育ちや保護者との関係づくりは、数字に表れるものではないからです。そのうえ、評価が給与を決める査定として受け止められると、評価面談で成長を話し合いにくくなります。そのため私たちは、評価を昇格の条件の一つとして使い、昇格によって基本給が上がるという、間接的なつなぎ方をとっています。
まとめ|賃金制度は、職員に説明できる根拠から組み立てる
処遇改善等加算は、賃金体系の改善を目的にしています。区分ごとに賃金のどの部分で改善するかが定められ、通知は給与表や給与規程の見直しを推進しています。賃金の決め方は、職員にも園の外にも説明するものになりました。
処遇改善等加算の一本化と、キャリアアップ研修の修了要件の本適用がそろったいまは、継ぎ足してきた賃金制度を見直し、一本筋の通った形にするよい時期です。
給与の高い・低いは大事です。それと同じくらい、給与の決め方を職員に明確に説明できる賃金制度が必要だと、私たちは考えています。職員に給与の理由を聞かれたとき、年数のほかの根拠で答えられるかどうか、一度確かめてみてください。
執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)



