こども性暴力防止法(日本版DBS)で保育園に義務付けられることは?|2026年12月25日施行までの準備総まとめ

投稿日:2026年7月24日
2026年(令和8年)12月25日、「こども性暴力防止法」が施行されます。性犯罪歴の確認制度——いわゆる「日本版DBS」——として報道で取り上げられることの多い法律ですが、保育所・認定こども園は、この法律の「義務対象」です。施行日を境に、犯罪事実確認、従事者研修、規程の整備といった措置が、園の法的な義務になります。
「何から手をつければよいのかわからない」「うちのパート職員やバスの運転手も対象になるのか」——施行まで残り約5か月。本コラムでは、こども性暴力防止法で保育園に義務付けられることの全体像と、施行に向けた準備についてまとめました。
1. こども性暴力防止法とは——「日本版DBS」と呼ばれる新しい仕組み
こども性暴力防止法の正式名称は、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号)です。2024年(令和6年)6月に成立し、2026年(令和8年)12月25日に施行されます(制度の全体像はこども家庭庁の特設ページにまとまっています)。
この法律の根底にあるのは、性暴力はこどもの心身の発達に深刻な影響を及ぼし、その人権を著しく侵害する、断じて許されない行為である——という基本的な考え方です。
「日本版DBS」という通称は、英国のDBS(Disclosure and Barring Service)にならった性犯罪歴の確認制度に由来します。ただし、ここで押さえておきたいのは、この法律が求めているのは「性犯罪歴の確認」だけではないということです。確認はあくまで柱の一つであり、法律全体としては、研修・報告体制・情報管理・防止措置まで含めた「園の安全体制づくり」そのものを事業者に求めています。
言い換えれば、これは採用時の事務手続きだけで完結する話ではなく、園の組織運営全体に関わる法律だということです。
2. 保育園は「義務対象」——どの施設・どの職員が対象になるのか
義務対象と認定対象の違い
対象事業者は、大きく2つに分かれます。
| 区分 | 対象 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 義務対象(学校設置者等) | 学校、幼稚園、認可保育所、認定こども園 など | 法に定められた措置を必ず実施 |
| 認定対象(民間教育保育等事業者) | 学習塾、スイミングクラブ、認可外保育施設 など | 申請により国の認定を受けて制度に参加 |
認可保育所・認定こども園・幼稚園は義務対象です。施行日以降、対応するかどうかを選ぶ余地はありません。複数の事業形態を運営している法人は、施設ごとにどちらの区分に当たるかを、こども家庭庁の公式資料で確認しておくことをおすすめします。
対象職員は「3要件」で判断する
犯罪事実確認の対象となる職員の範囲は、職種名だけでなく、業務の実態が次の3要件に当てはまるかで判断します。
| 要件 | 考え方 |
|---|---|
| 支配性 | 指導や交流を通じて、こどもに対して優越的な立場に立つ機会があるか |
| 継続性 | 日常的・定期的、あるいは不定期でも反復継続が見込まれる業務か |
| 閉鎖性 | 第三者の目が届かない状況で接する機会があるか——SNS等のオンライン接触も含む |
保育士や教諭のように、業務の性質上つねに3要件を満たす職種は一律に対象です。一方、事務職員・調理員・送迎バスの運転手などは、実態に応じて個別に判断します。ここで見落とされがちなのが「閉鎖性」にオンラインが含まれる点です。連絡アプリやSNSを介した接触も、密室と同じ扱いになり得ます。
雇用形態は問わない
対象かどうかの判断に、雇用形態の違いや雇用契約の有無は関係ありません。パート・短期間の労働者・ボランティアであっても、実態が3要件に当てはまれば対象となります。「正職員だけ確認すればよい」という理解は誤りですので、注意が必要です。
3. 義務付けられる措置の全体像——5つの柱
保育園に義務付けられる措置を、本コラムでは園の実務の観点から次の5つに整理します(こども家庭庁の準備ガイドでは「周知」を含む4項目で構成されています)。
| 措置 | 内容 | 時期・期限 |
|---|---|---|
| ①犯罪事実確認 | 対象職員の特定性犯罪前科の有無を国のシステムで確認 | 新規採用者は従事開始前/現職者は施行後3年以内 |
| ②従事者研修 | 全対象職員が国の教材等による研修を受講 | 従事開始前/現職者は施行前の受講が求められる |
| ③報告・対応体制 | 疑いを把握した段階での報告ルールと対応体制の整備 | 施行までに策定・周知 |
| ④情報管理 | 犯歴情報等の管理規程の策定と厳格な運用 | 施行までに策定 |
| ⑤防止措置 | 「不適切な行為」の定義・周知と、就業規則等への反映 | 施行までに整備 |
なお、施行後はこれらの取組状況について、年1回、こども家庭庁への定期報告が必要になります(初回の報告は令和10年度(2028年度)から開始することとされています)。通常の指導監査でも取組状況が確認されるため、「施行日までに一度作って終わり」ではなく、毎年説明できる状態を保ち続けることが前提になります。
①犯罪事実確認(日本版DBS)
新規に採用する対象職員は、業務に従事する前に確認を済ませる必要があります。施行時点ですでに働いている現職者については、施行後3年以内に順次確認を行う経過措置が設けられています。また、一度確認を受けた職員も、5年ごとの再確認が必要です。
確認は、国の専用システム「こども性暴力防止法関連システム(通称:こまもろうシステム)」を通じて行います。事業者はGビズID(プライム)を取得したうえでシステムに登録し、職員本人には、アカウント登録と戸籍等の登録(いずれもマイナンバーカードを用いたオンライン手続き)が必要になります。職員への早めの案内、特にマイナンバーカードの準備が、後の事務負担を大きく左右します。
②従事者への研修
対象職員全員に、性暴力防止に関する研修の受講が求められます。こども家庭庁が標準的な研修教材(動画・演習資料・理解度テスト)を無償で公開しており、常勤職員向けの標準的な教材と、短期間・不定期の従事者向けの要点教材を使い分けることができます。受講記録の管理までが実務です。研修記録は、園が安全確保措置を尽くしていたことを示す何よりの証拠になります。
③「疑い」の段階から動く報告・対応体制
事案への対応で法律が明確に求めているのは、「様子見をしない」ことです。疑いを把握した段階で速やかに報告が上がり、特定の個人が抱え込まずにチームで対応する——この流れを「報告ルール」「対応ルール」としてあらかじめ定め、職員だけでなくこどもや保護者にも周知しておくことが義務付けられています。重大事案にも対応できる一定の権限を持つ役職者を、こどもの安全・保護に関する責任者として定めておきましょう。
あわせて、園内での相談員の選任または相談窓口の設置・周知と、外部相談窓口の周知も事業者の義務です。窓口は、こどもの発達段階や特性を踏まえ、複数の相談先から選べるようにするなど、「相談しやすさ」の工夫までが実務のうちです。
④犯歴情報の厳格な情報管理
犯罪事実確認で得られる情報は、極めて機微な個人情報です。情報を扱う人を必要最小限に限定し、犯歴情報は専用システム上でのみ扱ってシステム外への書き写しや保存を行わない運用を、情報管理規程として定めます。情報をみだりに他人に教えた場合には、法に基づく刑事罰が科されるだけでなく、民事上の損害賠償請求の対象にもなり得ます。また、漏えいなどの重大な事態が発生した場合には、こども家庭庁へ直ちに報告する義務もあります。
⑤性暴力の芽を摘む「防止措置」
重大な事案は、多くの場合、その前段階に「不適切な行為」の積み重ねがあります。私的な端末での撮影、理由なく特定のこどもとばかり関わろうとする振る舞い、業務上の必要を超えた身体接触——こうした行為を園として明確に定義し、就業規則等に禁止事項・懲戒事由として明文化しておくことが、防止措置の中核です。
このとき大切なのは、一方的にルールを示すのではなく、現場との対話を通じて境界線を確認することです。「どこまでが必要なケアで、どこからが不適切なのか」——この線引きが曖昧なままでは、職員が萎縮し、こどもに必要な触れ合いや関わりまで控えるようになってしまいます。基準を明確にすることは、こどもを守ると同時に、働く職員を守ることでもあるのです。
4. 施行までの逆算スケジュール——残り5か月でやること
こども家庭庁が2026年(令和8年)7月17日に公開した「義務事業者用準備ガイド(Ver.1.0)」は、施行までに最低限実施すべき事項を「周知」「犯罪事実確認・防止措置」「安全確保措置の体制整備」「情報管理措置」の4項目に整理し、巻末にチェックリストを付けています。これを踏まえ、施行日から逆算すると準備は次の3段階に整理できます。
【今すぐ着手すること】
- 制度についての職員への周知——施行後は性犯罪前科の確認が必要になること、前科がある場合はこどもと接する業務に就けなくなること、施行前に研修の受講が必要なこと。準備ガイドが最初に挙げている項目です
- 事業者情報の事前登録(まとめ登録)の状況確認——義務対象事業者は、令和8年4月から7月の指定期間中にGビズIDを含む事業者情報の事前登録が必要とされています。未対応の場合は、所管自治体・こども家庭庁の案内をただちに確認してください
- 「義務事業者用準備ガイド(Ver.1.0)」の入手と、準備の旗振り役(担当者・責任者)の決定
【8月〜10月に進めること】
- 現場との対話を通じた「不適切な行為」の定義づくり
- 就業規則・服務規程の改定(対象業務従事者の範囲、禁止行為、犯罪事実確認の手続きに応じる義務、試用期間の解約事由、懲戒事由など——準備ガイドが挙げる記載事項の例に対応)
- 情報管理規程の策定と、犯歴情報を扱う担当者の限定
- 報告・対応ルールの策定と責任者の任命
- 職員へのマイナンバーカード準備の案内
- 採用募集要項・誓約書の見直し——施行前でも、いま募集を行っている求人から前倒しで。内定取消しが有効と認められるためには、採用過程で性犯罪歴がないことを書面等で確認し、内定取消事由をあらかじめ明示しておくことが必要とされています
- (まとめ登録済みの法人)こまもろうシステム上の権限設定の検討・登録内容の確認
【11月〜12月に完了させること】
- 従事者研修の実施と受講記録の整備
- 報告・対応フローの職員周知(できれば一度の机上演習)
- 保護者・こどもへの周知(入園時に配る資料などの文書での周知が推奨されています)
- こまもろうシステムへのログイン・操作確認(12月から事業者アカウントでの操作が始まります)
- 現職者の犯罪事実確認について、3年間を見据えた年次計画の作成
5. 公式ひな型を活用する——ゼロから作る必要はありません
規程や書式は、ゼロから作る必要はありません。こども家庭庁が公式のひな型・参考例を公開しています。
| 準備項目 | 公開されているひな型・参考例 |
|---|---|
| 採用 | 募集要項・求人票の参考例、誓約書・内定通知書の参考例 |
| 就業規則 | 就業規則の規定参考例 |
| 報告・対応 | 報告ルール・対応ルールのひな型、対応フロー資料 |
| 情報管理 | 情報管理規程のひな型(管理方法別に3パターン)、取扱記録の様式 |
| 研修 | 標準動画・要点動画、研修の手引き、研修実施計画書・研修記録の様式、演習資料・確認テスト(従事者向け研修教材ページ) |
| 周知 | 保護者向け周知資料、こども向け相談フロー資料(年齢別3種類) |
| 短期・ボランティア | 意向確認書面の作成例 |
あわせて、公式のQ&A(令和8年4月版)と事業者向けチェックリストも更新されています。まずはひな型を園の実態に合わせて調整する、という進め方が現実的です。ただし、ひな型はあくまで一般形です。園の規模・職種構成・既存の規程との整合は園ごとに異なりますから、就業規則の改定は専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
6. こども性暴力防止法のよくある質問(保育園向けFAQ)
Q1. いつから始まりますか?
2026年(令和8年)12月25日に施行されます。犯罪事実確認や研修などの義務は、この日から発生します。
Q2. どの施設が対象ですか?
幼稚園・認可保育所・認定こども園などは義務対象です。学習塾や認可外保育施設などは、申請により国の認定を受けて制度に参加する認定制度の対象です。
Q3. パートやボランティアも対象になりますか?
雇用形態や契約の有無は問いません。支配性・継続性・閉鎖性の3要件に業務の実態が当てはまれば、パート・短期間の労働者・ボランティアも対象になります。
Q4. 今働いている職員の確認はいつまでに必要ですか?
施行時点の現職者は、施行後3年以内に順次確認を行います。また、一度確認を受けた職員も5年ごとの再確認が必要です。
Q5. 研修は全員が受けるのですか?
対象職員は全員受講が必要です。こども家庭庁が標準的な教材と、短期間・不定期の従事者向けの要点教材を公開しており、勤務形態に応じて使い分けます。
Q6. 罰則はありますか?
あります。施行後は取組状況を年1回こども家庭庁へ定期報告する必要があり(初回は令和10年度から開始することとされています)、通常の指導監査でも確認されます。措置が適切に行われていない場合には、違反事業者の公表、報告徴収や是正命令、認可の取消し等が行われます。さらに、是正命令に従わない場合や、犯罪事実確認で得た性犯罪歴をみだりに他人に教えた場合などには、刑罰(拘禁刑・罰金刑)が科されることがあります。とくに性犯罪歴の漏えいは、刑事罰に加えて民事上の損害賠償請求の対象にもなり得ます。
まとめ:こども性暴力防止法への対応は「バラバラに」作らない
こども性暴力防止法への対応は、就業規則の改定、研修の実施、報告フローの整備、情報管理規程の策定——と、複数の実務を同時に進めることになります。ここで私たちが強くお伝えしたいのは、これらをバラバラの書類として作らないことです。
就業規則に書かれた禁止行為と、研修で職員に伝える内容と、報告フローに書かれた窓口が食い違っていれば、制度は現場で機能しません。逆に、園の理念から行動基準、規程、相談窓口までが一貫したものとして職員に共有されていれば、今回の法対応は、園と職員、そして保護者との信頼を高める組織づくりの機会になります。保育を取り巻く制度は、今回に限らずこれからも変わり続けます。だからこそ、一度の対応で終わらせず、変化に合わせて園の規程や仕組みを見直し続けられる体制を整えておくことが、施設経営者・管理者にとって最大の備えになるのではないでしょうか。
今回はこども性暴力防止法(日本版DBS)についてお伝えしました。施行日がゴールではなくスタートラインです。まずは準備ガイドとひな型を手元に揃えること、そして園内で旗振り役を決めること——今週からできるこの二つから、始めてみてください。
株式会社ネクサスは、保育施設に特化した組織づくり・人材育成支援を行っています。こども性暴力防止法への対応を含めた園のルールや行動基準を一冊にまとめた職員ハンドブック「園BOOK」の作成支援についても、お気軽にご相談ください。
執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)


