伝え方ひとつで人は伸びる|保育現場で使える「教える」技術

投稿日:2025年10月24日

職員育成がうまくいかない原因の多くは「内容」ではなく「伝え方」にあります。どんなに正しいことを言っても、伝わり方を間違えると相手の心は閉じてしまいます。反対に、少し言葉の選び方を変えるだけで、相手が“自分から動き出す”ようになります。

保育の現場は、子どもも保護者も職員同士も人との関わりが密な場所です。だからこそ、伝え方の工夫が人を育て、園を強くする力になります。このコラムでは、今日から実践できる「人が伸びるフィードバックの技術」を紹介します。


目次

「伝え方」が人の成長を左右する

指導をしたつもりが、なぜか落ち込ませてしまった。
同じことを何度伝えても、なかなか変わらない。
教えるよりも、自分でやった方が早いし確実だ。

こんな経験がある方は多いのではないでしょうか。

人は「何を言われたか」よりも、「どう言われたか」で行動を変えます。たとえ内容が正しくても、伝え方がきつかったり一方的に感じられたりすると、本当に伝えたいことが伝わらないのです。それは自分自身が伝えられる側になった場合も同様ではないでしょうか。もっと言えば、「誰に言われたか」も重要です。たとえ叱責や注意でも、それを伝えられる関係性ができていて、伝え方にも思いやりや信頼があれば、相手は受け入れることができます。

もちろん自分の伝え方だけでなく、相手の「受け取り方」もありますが、それは相手の課題であり、私たち自身には変えられないことです。教え上手になりたいのなら、自分自身の伝え方を磨き、園に育ち合う風土を作りたいのなら、職員一人ひとりが伝え方を磨く機会を設けましょう。伝え方が変われば、園全体の雰囲気や信頼関係が変わります。

私たちは大人に対する「教え方」を学んでいない

なぜ多くの保育現場で「うまく伝えられない」悩みが生まれるのでしょうか。
それは、私たちが「大人への教え方を教わっていない」からです。

保育士として子どもに教える力は学んできましたが、同僚や後輩など大人に伝える力を体系的に学ぶ機会はほとんどありません。基本的には、自分が教わってきたように教えているはずです。だからこそ、正しいことを伝えようとしても、相手に届かなかったり、関係がぎくしゃくしたりするのです。

そもそも、教えるとは何でしょうか。

日々の業務を滞りなく進められるようにすることでしょうか。それとも、相手が理解しできるようになるまで伝えることでしょうか。相手が自分で気づきを得られるまで導き見守ることも「教える」でしょう。教えることには目的とそれに合った方法があるのです。

ここで大切なのは、「教えたいこと」が同じでも相手によって「教え方」は変えた方がいいということです。これは「伝え方」と言い換えても良いでしょう。

保育の現場は、人の感情と向き合う仕事。子どもだけでなく、職員同士にも「安心感」が必要です。新人が失敗を恐れて挑戦できなくなるのは、スキルの問題ではなく、“伝え方”による心理的な圧力が原因のことが多いのです。

伝え方は、単なる言葉遣いの問題ではありません。それは「相手をどう見ているか」「相手の成長をどれだけ信じているか」という姿勢そのものです。園長や主任の一言が、職員にとって「責められた」と感じるのか、「信頼されている」と感じるのか。
その違いが、職員の行動意欲を大きく左右します。保育の質を高めるために必要なのは、“伝える技術”よりも“伝わる関係性”。相手の気持ちに届く伝え方ができる組織は、自然と人が育ち、学びが循環していきます。


保育現場では「この子はどんなことが苦手で、どんなことに課題感を持っているのかな。」逆に、「この子はどんなことが得意で、どんなことなら率先して動くのかな。」と子どもたちの様子を観察したり、時には本人に問いかけてその子自身のことを知り、その上で働きかけ方をその子に合わせて変えているはずです。普段の保育で皆さんが当たり前のように行なっていることを職員の育成にも適用すればいいのです。そういう意味では、皆さんは「育成」の本質をよく知っている立場といえるでしょう。

NGな伝え方3パターン|よかれと思って伝えていませんか?

私たちは子どもへの教え方は学んできても、大人への伝え方はほとんど学んでいません。そのため、良かれと思って伝えた一言が、相手の心を遠ざけてしまうことがあります。ここでは、現場でよく見られる“伝え方の落とし穴”を3つ紹介します。

否定から入る「ダメ出し」型フィードバック

「それじゃダメ」「まだ全然できてない」——つい口をついて出る言葉です。
意図は「改善してほしい」「もっと良くなるはず」でも、相手には「否定された」「信頼されていない」と受け取られやすい伝え方です。

私たちはどうしてもできていないところに目が向きがちです。それは伸び代に対する期待の表れでもあるのですが、否定的なフィードバックばかりだと自分は信用されていない、私は役に立たない、どうせ私にはできない、と相手の自己肯定感を下げることにつながりかねません。

最初に事実や努力を認めてから改善点を伝えるだけで、受け止め方はまったく違ってきます。
「ここは前より良くなったよね」「こんなところを工夫したんだね」と肯定的なフィードバックを意識して伝えるようにし、もっと良くなる、あなたならできるよ、という期待を伝えましょう。

比較で伝える「○○先生はできているのに」

比較は一見わかりやすく思えますが、モチベーションを下げる最大の要因になります。人は他人と比べられると、自信を喪失し、自己防衛に意識が向き、挑戦を避けるようになります。

幼い頃、親から家庭内で兄弟で比較されたり、よその家の子を引き合いに出されたりした経験は誰しもあるのではないでしょうか。その意図は「〇〇ちゃんにできたんだからあなたもできるはず」という期待や励ましだとは思いますが、それによって奮起できる人はそう多くないでしょう。

そう考えると、「〇〇先生にはできたのにあなたはできないの?」という否定的な言い方でなかったとしても、同程度の経験者を指して「あの人にできたからあなたもきっとできるよ」と伝えたり、「私が新人の時もできたからあなたも大丈夫」と伝えたりすることは相手の立場になって伝えているとはいえないですよね。

伝えるときは「他人との比較」ではなく、「過去の自分との比較」で成長を伝えるのがポイントです。
相手が「周りからどう見られているか」という評価ではなく「自分の成長」に目を向けられるようになるからです。
「以前に比べてこれができるようになったね」というわかりやすい変化だけでなく、「前よりも早くできるようになった」「文章がわかりやすくまとめられるようになった」「丁寧にできるようになった」「誤字脱字が減った」などの本人も気づかないような小さな変化をフィードバックできると「この人はちゃんと自分を見ていてくれている」と信頼感が高まります。

感情のままに伝える「勢い」型指導

忙しさや責任感の中で感情が先に出てしまい、つい強く言ってしまった——人間なら誰しもあることでしょう。パワハラは論外ですが、管理者としてはっきりと言わなければならない場面もあるのも理解できます。
しかしその一言によって、これまでの信頼を失ってしまったり、相手に「攻撃された」と受け止められる恐れもあります。怒りの感情が強すぎれば、伝えるべき「何が問題でどうして欲しいのか」という本質が伝わらないということにもなりかねません。

とはいえ、常に自分の感情を抑えて穏やかでいましょう、ということではありません。相手のことを思って熱心に指導するためには感情も必要です。現代の指導者は自分の感情をコントロールし、言葉を選んで伝える術を身につけることが求められているのです。
感情に振り回されている人は、周囲から見ると「機嫌に左右される人」に映ります。相談したいことがあっても「今日は機嫌悪そうだからやめておこう…」と距離を置かれてしまったり、大切なことを伝えていても「機嫌が悪いから叱られたんだ」と意図しない受け取り方をされてしまったりします。

大切なのは、“感情を否定する”のではなく、“言葉にする前に一呼吸おく”ことです。冷静に伝えた言葉のほうが、相手の心には確実に届きます。


伝え方の目的は「相手を変えること」ではなく、「相手が自分で気づき、変わろうと思うきっかけをつくること」です。その視点を持てると、日々のやり取りが“注意”から“成長支援”に変わります。

保育に置き換えて考えてみてもいいかもしれません。子どもたちにしない関わりを、同僚相手にしていないでしょうか。

人が伸びる伝え方の基本構造|3ステップで伝え方を変える

「ダメ出し」や「比較」、感情的な伝え方がうまくいかないということを見てきましたが、ではどうすればいいのでしょうか。
ここで大切なのは、“伝える”ではなく“伝わる”構造を意識することです。人が成長する伝え方には、共通する3つのステップがあります。

① 事実を具体的に伝える

人は「評価」や「印象」では動きません。動機になるのは、自分の行動について事実を正確に理解することです。
子どもたちに対する関わり方で実感していると思いますが、「もっとしっかりして」「ちゃんとやって」よりも、「子どもが転んだとき、すぐに駆け寄って声をかけていたね」と具体的に伝える方が、相手は自分の行動を振り返りやすくなります。

客観的な事実をそのまま伝えることは、相手の成長の土台を整える作業です。

② 伝える目的を共有する(なぜ伝えるのかを言葉にする)

「なぜそれを伝えるのか」が明確でないと、相手は“指摘された”としか感じません。「あなたを責めたいわけではなく、子どもへの安心感をより深めるために伝えています」と意図を明確に添えることで、受け手は安心して耳を傾けられます。伝える目的は「正す」ことではなく、「育てる」こと。目的を共有できれば、伝える側と受け取る側が同じ方向を向けます。

③ 次の行動を一緒に考える(指示ではなく伴走)

「こうして」「次は気をつけてね」で終わらせず、「次はどんなやり方を試してみたい?」と問いかけてみましょう。指示ではなく対話によって次の一歩を引き出すことが、主体的な成長を生みます。このプロセスを繰り返すことで、「言われて動く」から「考えて動く」職員へと変わっていきます。


保育現場ですぐ使えるフィードバック技術

理論を理解しても、実際にどう伝えるかとなると難しいもの。ここでは、保育現場で今日から実践できる“伝え方の工夫”を紹介します。

ポジティブフィードバック:「○○ができていて素晴らしいですね」

人は「できていないこと」よりも、「できていること」を認められることで伸びます。たとえば「子どもが泣いたとき、すぐに声をかけていたね。安心している様子が伝わってきたよ」——。このように行動+結果を具体的に伝えると、本人は「何を続ければいいか」が明確になります。

リフレクション質問:「今日一番よかった点は?」で気づきを促す

「今日一番うまくいったことは?」「明日もう一度やるなら、どこを変えてみたい?」こうした質問は、教える側が答えを与えるのではなく、相手の中に答えを見つけさせるアプローチです。リフレクション(内省)の習慣が根づくと、“言われて動く”から“考えて動く”職員へと成長していきます。

サンドイッチ法:「良い点 → 改善点 → 期待」で安心して受け止めてもらう

否定から入らない伝え方として効果的なのがこの方法。「ここが良かった」→「次はこうするともっと良くなる」→「あなたならできると思う」と伝えることで、相手は安心感を持ちながら改善点を受け入れやすくなります。

タイミングを見極める:「注意より対話」「感情より冷静さ」

伝える内容よりも、“いつ・どこで伝えるか”が重要なことも多いです。忙しい時間帯や、相手が感情的になっているときは避け、1対1で落ち着いて話せるタイミングを選びましょう。言葉は同じでも、伝える“間”が違えば、受け取る印象は大きく変わります。

「信頼を前提に伝える」という意識

「できていないところを直してあげよう」ではなく、「もっと良くなると思うから伝える」という姿勢が大切です。信頼がベースにある伝え方は、相手の防御心を溶かし、成長意欲を引き出します。フィードバックとは、評価の場ではなく“信頼の再確認”の場なのです。


伝え方を少し変えるだけで、園の空気は確実に変わります。「注意」や「叱責」が減り、「感謝」や「気づき」が増える。その変化の積み重ねが、園全体の学び合う文化を育てていきます。

伝え方の文化が園を変える|“伝え合うチーム”が育つ職場へ

  • リーダーの伝え方が変わると、園全体の空気が変わる。
  • 「ありがとう」「助かった」の共有が増えると、協働意識が育つ。
  • フィードバックを“指導”ではなく“信頼を築く対話”に変える。

一人の伝え方が変わると、園の空気は確実に変わります。なぜなら、言葉は職員同士の信頼をつくる“橋”だからです。管理者が丁寧に伝える姿勢を見せると、職員も自然とその姿勢を真似します。「ありがとう」「助かりました」「教えてくれて嬉しいです」——そうした小さな言葉の往復が、園全体に“安心して話せる空気”をつくります。


① 指導より「対話」を重ねる園

一方的に伝えるのではなく、相手の意見を聴き、考えを尊重する姿勢。それが日常の会話に根づくと、職員は“自分もチームの一員として認められている”と感じます。この感覚が、仕事への主体性を引き出す土台になります。


② 「伝え方のモデル」としてのリーダー

主任や園長が「伝える力の見本」になることで、現場全体のコミュニケーションが変化します。例えば、ミスを指摘する場面で「なぜそうなったか」ではなく「どうすれば次につながるか」を一緒に考える姿勢を見せる。その瞬間、周囲の職員は“伝え方は責めるためではない”と学び取ります。


③ フィードバックを「文化」にする仕掛け

  • 週1回の“ちょっと共有タイム”を設けて、お互いの学びを話す。
  • 終礼で「今日のありがとう」を一言ずつ伝える。
  • 園内研修に“伝え方ロールプレイ”を取り入れる。

こうした小さな取り組みが、「伝え方=特別な技術」から「日常の習慣」へと変わるきっかけになります。

言葉は、最も身近で最も強力な組織づくりのツールです。伝え方の文化が根づいた園では、職員同士が信頼でつながり、新人もベテランも自然に学び合う関係が育ちます。


まとめ|伝え方を変えることが、園の成長をつくる

  • 人は「評価」より「共感」で動く。
  • 伝え方を磨くことは、園の組織文化を育てること。
  • 一言が変われば、職員の笑顔も、子どもの安心感も変わる。

伝え方はスキルではなく、人を大切にする姿勢です。

正しい指導法よりも、相手の成長を信じて伝える姿勢こそが、人を動かし、園を変えていきます。忙しさや責任の重さの中で、つい感情的になってしまうこともあるでしょう。でも、「伝え方を意識する」という小さな一歩が、園の空気をやわらかくし、信頼の輪を広げていきます。それは、特別な研修や制度ではなく、日々の“言葉の使い方”から始まります。

言葉には、人を萎縮させる力もあれば、人を育てる力もあります。

「伝える力」は「育てる力」。

そして、育つ園とは、互いにフィードバックを贈り合い、支え合う文化が息づく場所です。

園長・管理者の皆さんが、その文化の起点になること。
それが「伝え方を変える」ことの本当の意味であり、園の成長を支える最も確かな経営戦略です。


私たちネクサスは、保育施設専門にキャリアパス設計サービスを提供しています。
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