保育園のキャリアパス制度が形骸化する原因と、機能させるための見直しポイント

キャリアパス制度を整えたものの、いつの間にか職員から話題に上がらなくなった。人事評価や面談の時期だけ思い出したように資料を引っ張り出している。新しく入った職員に説明しようとしたら、自分でも上手く説明できず言葉に詰まってしまった――。
そんなお話を、保育施設の経営者や管理者の方からよく伺います。制度そのものが悪いわけではないのに、いつの間にか「形だけ」になってしまう。これは決して珍しいことではなく、多くの園で起きている事実です。
今回は、なぜキャリアパス制度が形骸化してしまうのか、そしてどうすれば「使われる制度」として機能させていけるのかを、現場でよく見られるパターンとあわせて整理してみたいと思います。
はじめに
制度の形骸化は、「ただ使われていないだけ」では済まないところがあります。
たとえば、評価のタイミングだけ慌てて動かしたり、予定で決められた面談が実施されないような状態が続くと、職員からは「結局、上の都合で動いている制度」と映ってしまいます。本来は職員一人ひとりの成長を促すための仕組みなのに、評価される側にとっては負担や不信の対象になってしまう。
また、頑張っている職員が正当に評価されない状態が続けば、「ここで頑張っても仕方がない」という感覚が少しずつ広がります。これは離職の伏線にもなりますし、何より、園が目指す保育の方向に職員の意識が向きづらくなってしまいます。
制度の形骸化は、目立ちはしませんが、園の風土をゆっくりと傷つけていきます。日々の保育に追われていると気づきにくい変化だからこそ、「うちは大丈夫だろうか」と立ち止まって考えてみることが必要です。
保育園のキャリアパスが形骸化する3つの原因 ― 設計・運用・整合性
形骸化の背景には、いくつかの共通したパターンがあります。ここでは「制度設計」「運用」「整合性」の3つの視点から見ていきます。
■制度設計まわりのつまずき
ひとつは、最初から作り込みすぎてしまうケースです。等級表も評価項目も細かく設計し、詳細なルールを決める。意気込みは素晴らしいのですが、いざ運用してみると現場では回らない、ということがよくあります。立派な制度ほど、運用の負担が大きくなりやすいのです。
もうひとつは、園の現状に合っていないというパターン。法人内の他部門のものをそのまま流用したり、規模や状況の異なる他園の制度をそのまま流用したり。「形」は整っていても、自園の実情とずれているため、現場感覚との間に隙間が生まれます。
■運用面のつまずき
職員への目的の共有が不足しているケースも多く見られます。なぜこの制度を入れるのか、何を目指しているのか。そこが伝わっていないと、職員にとっては「上から降ってきたもの」になりがちで、やらされ感が先に立ってしまいます。
似た構造として、経営サイドだけで作って現場に任せきりにしてしまうパターンもあります。導入時はきちんと説明しても、運用が始まったあとは現場任せ。気づけば誰もメンテナンスしておらず、「なぜやっているのか」もわからない――というのは、よく見かける景色です。
■整合性のつまずき
「評価」ということばの整理も、注意したいポイントです。保育の自己評価と職員一人ひとりの能力評価の線引きが曖昧で、全員が同じ項目で評価されている状態だと、「何が何を評価しているのか」区別がつかず、現場は混乱します。これでは評価する側もされる側も納得感を持ちにくくなります。
そしてもうひとつ見落とされがちなのが、園が目指す保育と評価項目のずれです。日々大切にしている保育が評価項目に反映されていないと、現場で頑張っている職員ほど報われにくくなります。これは職員からの信頼を損ないやすいポイントです。
自園のキャリアパスは大丈夫? 形骸化を見抜く6つのチェックリスト
自園の状況を見直すときは、次のような視点で振り返ってみてください。
- 制度の目的を、管理者自身が自分の言葉で説明できるか
- 「何のための制度か」を職員に伝える機会が、年に一度はあるか
- 等級や評価項目を、自園の実情に合わせて見直したことがあるか
- 保育の自己評価と職員の能力評価が、別の仕組みとして整理されているか
- 決めたタイミングで評価面談がきちんと実施できているか
- 評価された職員が、その結果に納得感を持てているか
すべて当てはまる必要はありません。ただ、「ちょっと気になる」項目があるのなら、そこが見直しの入り口になります。
保育園のキャリアパス制度を形骸化させないための4つのポイント
ここからは、制度を「使われるもの」にしていくための視点を整理します。順番に意味があるので、「目的 → 設計 → 運用」の流れで見ていきます。
■まずは「目的」を明確にする
最初に立ち戻りたいのは、何のためにこの制度を入れるのか、ということです。処遇改善等加算の要件だから、というのも実際的な動機の一つですが、それだけだと制度はなかなか長続きしません。職員の育成のためなのか、定着のためなのか、目指す保育の実現のためなのか――。
そして、その目的を一番に腹落ちさせるべきは、現場ではなく、制度を運用する管理者側です。管理者自身が「なぜやるのか」を自分の言葉で語れる状態でないと、職員に伝えるときにどうしても言葉に詰まります。職員への共有は、管理者側の意思があってはじめて意味を持ちます。
■園の目指す保育から「設計」する
目的が定まったら、次は中身です。ここでぜひ起点にしていただきたいのが、「自園が目指す保育」と「そのために必要な職員像」です。
目指す職員像が描けると、求める力や姿勢が自然と見えてきます。そこから等級や評価項目を組み立てていくと、制度全体が園の方向性と一本の線でつながります。借り物の制度ではなく、自園の言葉で語れる制度に近づいていきます。
■制度は「小さく始めて、育てていく」
設計の段階で気をつけたいのは、最初から完璧を目指さないことです。運用してみないと見えないことは、必ずあります。想定外のつまずきも起きます。そのときに大切なのは、「やめる」ことではなく「直しながら続ける」こと。
精緻な制度を一発で作り上げるよりも、シンプルなものを継続的に運用し、定期的な見直しをヶ続けるほうが、結果的に園に合った制度に育っていきます。最初の段階で「不完全でも始める」という覚悟が、長く使える制度の前提になります。
■「運用」を軽く扱わない
そして最後は、決めたことを確実に実施することです。評価面談の時期、面談の持ち方、制度見直しのタイミング――どれも、決めても実行されないと「その程度のもの」と現場には映ります。
逆に、地味でも継続できていれば、制度は少しずつ職員の中に根づいていきます。「今年もきちんと面談をやってもらえた」「去年の話を覚えていてくれた」――そうした積み重ねが、制度への信頼をつくっていきます。派手な仕組みより、確実に回し続けることのほうが、形骸化の最大の予防になります。
すでにキャリアパス制度がある保育園のための、無理なく始める見直しの進め方
最近ではキャリアパス制度を「これから作る」よりも、「すでにあるけれど、うまく機能していない」という園のほうが、実際は多いかもしれません。
その場合、ゼロから作り直す必要は必ずしもありません。まずは、目的の再確認――「何のための制度だったか」を、管理者の間で共有し直すことから始めてみてください。
そのうえで、評価項目のうちピンとこないものを2〜3個だけ見直す、面談の頻度ややり方を変える、職員への説明の場を年に一度設ける、といったメンテナンスを行うのがおすすめです。一気に変える必要はありません。少しずつ動かしていくことが、職員にとっては「ちゃんと向き合ってもらえている」というメッセージにもなります。
おわりに
キャリアパス制度は、それ自体が目的ではなく、園の目指す保育と職員一人ひとりの成長を実現するための手段です。だからこそ、立派なものをつくることよりも、自園に合った形で運用し続けることのほうが大切です。
もし今、「うちの制度、なんとなく機能していないかもしれない」という感覚があるのなら、それは制度を見直したほうがいいというサインかもしれません。
まずは管理者同士で、「この制度は何のためだったか」を改めて話してみる。あるいは、本記事のチェックポイントを一つだけ自園に当てはめてみる。そんな小さな一歩からはじめてみてはいかがでしょうか。
執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)
株式会社ネクサスは、保育施設に特化したキャリアパス設計・人材育成支援を行っています。キャリアパス制度の見直しや、運用面でのご相談についても、お気軽にご相談ください。

