変えるべきは先生ではなく組織~仕組みづくりから始めた人材育成~【社会福祉法人晴芳会 ほうとく保育園 副園長・桜井みな先生にインタビュー】

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【やってみたいが育つ場所】~今、この瞬間が未来のチカラに。~
子どもたちの「やってみたい」という気持ちを大切にし、さまざまな経験を通して成長を育みます。また、保護者や保育士など周囲の環境にも心を配り、子どもが健やかに育つあたたかな場を大切にしています。

ネクサスは茨城県で認可保育園と小規模保育施設を展開するほうとく保育園さんへ、キャリアパス設計・運用サポートのサービスをご提供しています。今回は、キャリアパス制度の実際の運用面についてお話を伺いました。

【実施・導入実績】
キャリアパス設計(2023年)

2026.3.26

目次

ほうとく保育園の大切にしていること

ーーキャリアパスの話の前に、桜井先生の現在の立場について教えてください。

私は現在、副園長として3年から4年ほど務めています。以前はクラスを持ち、子どもや保護者に近い現場にいることが好きでしたが、副主任を経て副園長となって現場を離れることになりました。副園長として自分が何を担うべきか、最初は手探りでしたが、数年やってみて、今は先生一人ひとりの良さを引き出すこと、人材のマネジメントを行うこと、そして保育の質を高めるために全体のバランスを取ることが自分の役割だと考えています。園の価値を高めることや、地域にとって何が必要か、職員の雇用継続のために何が必要かを模索している段階です。

ーー園の特徴や、大切にしている考え方を教えてください。

保育園として一番大事なのは、子どもに質の良い保育を提供することだと思っています。ただ、子どもが健やかに育つためには、育てる側である保護者や保育士のバランスが整っていることが前提だと考えています。そのため、保護者と保育士の環境を整えることはとても大切にしています。

保護者に対しては、持ち物や準備物をできるだけ減らし、家に帰ってから保育園準備のために子どもと向き合う時間が減ってしまうようなことが無いようにしています。職員に対しては、休憩と事務時間を明確に確保し、保育と事務を切り替えられるよう一日のタイムマネジメント表を作っています。子どもたちのために、保護者と職員の心身の状態を整えて子どもとしっかり向き合える環境を作ることが園としてできることだと思っています。

キャリアパス制度導入のきっかけ

ーーキャリアパス制度導入前には、どのような課題がありましたか。

実は、自分たちだけでキャリアパスを作ってみたこともありました。ただ、園の方針としてキャリアパスを示す必要がある中で、その意味を十分に説明できないまま職員に渡すのはよくないと思っていました。処遇改善等加算の区分についても、なぜそのお金があるのか、何に対する責任なのかを言語化して伝える必要があると感じていました。

そのような中で一番の課題は、評価やルールが言語化されていなかったことです。先生の得意・不得意を見てはいても、それが人の感覚に依存していて、見る人によって判断がぶれてしまっていました。園として示せる基準が必要でした。

ルールを示すという意味では、以前から自分たちで就業規則や保護者対応などをまとめた文書はありましたが、「してはいけないこと」が中心で、「なぜそれが必要なのか」まで十分に示せていませんでした。また、私が作っている一日のタイムマネジメント表も、私がいなくても同じように回る状態にしなければならないと思っていました。誰がその位置に立っても同じように保育を回せる状態を作りたかったんです。

ーーその課題をキャリアパス制度で解決しようと思ったのはなぜですか。

副園長になった頃、「今は人材育成がうまくいっていても、それは今いる先生たちに支えられているだけなのではないか」という不安を感じていました。たとえば主任や園長が変わったときに、同じ保育や同じ働きやすさを維持できなくなってしまうのではないかと思ったんです。先生たちにもそれぞれの人生があり、状況は変わります。だからこそ、特定の人任せではなく、組織として人を育てる仕組みが必要だと思いました。

その頃、同じ仕事でも同じようにできる人とできない人がいること、例えば事務仕事が時間内に終わる人と終わらない人がいることを個人の力の問題にしてはいけないとも感じていました。その対策として、年間カレンダーで時期ごとの仕事を決め、誰が取り組んでも優先順位が見えやすい状態にするなど、徹底的に仕組みで解決してみると、先生たちが迷いなく動けるようになったと実感しています。

だから、変えるべきは現場の先生たちじゃなく組織の仕組みの方なんじゃないかなと思ったんです。そこで人材育成も仕組み化するために、キャリアパスという制度を活用しようと考えました。

ーー仕組み化にあたって、外部(ネクサス)に依頼することにした理由を教えてください。

これまでの経験から、第三者の言葉の方が職員に届きやすいこともあると思っていました。園の中だけで自力で作ったものだと「園長が言っていること」になってしまいますが、外部の専門家が入ることでより良い制度が作れますし、職員へ伝える際も制度への理解が深まると思いました。

ネクサスさんを選んだのは、保育業界に特化していることが大きかったですね。加えて、同じ茨城県で知り合った、複数園を経営されている先生が使用していたのもあり、自分も人材育成を進めたいと思って問い合わせました。そこで詳しく話をした際に私たちの園に合った制度が作れるとわかったので、内容に納得した上で導入を決めました。

キャリアパス制度の運用と共有

ーー実際に制度づくりを進めてみて、どう感じましたか。

制度づくりはとても難しかったです。主任と副主任の4人で進めましたが、日々の仕事と同時進行なので、どうしても後回しになりがちな仕事でもありました。最初にできたものも、自分の感覚では6割から7割くらいの完成度だったと思います。ただ、やらないよりは前に進むという気持ちで、まずは形にしました。今振り返ると、その時に先延ばしにしなかったことが良かったと思っています。現在は見直しを重ねて8割から9割くらいまで完成度が上がってきたと感じています。

また、設計中はネクサスさんが、こちらの詰め切れていない意見や細かな課題も理解しようとしてくださったことが印象に残っています。既存の型を当てはめるだけではなく、私たちの園の課題とすり合わせながら進められたことが大きかったです。

目的ごとの面談を計画通りに実行することを大切に

ーー評価や面談はどのように運用していますか。

評価と面談は、制度を作った時に決めた通り、6月と12月に実施し成長支援のための個人面談を行っています。次年度の勤務形態の変更希望がある人は別の機会に面談を行い、成長支援の面談とは分けています

運用は決めた通りに確実に実行する、とネクサスさんにも言われていたので、面談日も年間で決めており、主任と副主任が分担して進めています。評価シートは手書きですが、その後、上司会議を行い、主任や副主任など複数名で一緒に見ながら話し合い、評価を確認しています。面談の記録や本人が話したこと、こちらが伝えたことはクラウド上で共有しています。

一人だけで評価しないこと、計画したことを必ず実行することを大切にしています。先生たちも面談日が決まっているので準備がしやすく、2週間ほど前から評価シートを書き始めている職員もいるようです。実際に行ってみて、面談は準備が大切だと実感しています。

園BOOKは読み合わせをし園の方針を自分ごとにする

ーー制度はどのように現場に定着させていますか。

制度が園に馴染むように、見直しは毎年行っています。6月や12月の評価の時点で、設問が抽象的すぎる、答えに困る、評価する側も迷う、といった課題が出たら、その場でメモを残しておき、次年度版を作るときに修正しています。それを繰り返すことでだんだん制度の完成度が上がっていると思います。

制度や園のルールを共有化するための園BOOKは正職員が一人一冊持ち、パート職員はクラスごとに一冊を置いています。さらに、6月と12月には必ず読み合わせを行っています。読んで終わりではなく、自分たちがやっていなかったことに気づき、もう一度自分ごとにするためです。
現場からは、「これがあるから指導しやすい」という声を聞きます。たとえば座り方なども方針として書いてあるので、個人の好き嫌いではなく園の方針として伝えられます。また、何か起きたときにも「園BOOKに書いてあるはず、まずは確認しよう」と自分で探すようになり、主任や副主任への細かな相談は減りました。

キャリアパス制度導入後の変化

働き方改革の次は働きがい改革

ーーキャリアパス制度を導入して、職員にはどのような変化がありましたか。

3年間やってきて感じる変化は、職員の個性が良い形で出てきたことです。評価シートを通じて、自分の性格や課題、得意なことを理解し、お互いに話すようになったことで、それぞれの役割が明確になってきました。その結果、仕事だけでなく、人として積極的になったと感じています。職員にアンケートを取ると、こんな園内研修をやりたい、この資格を取りたい、こういう勉強がしたい、という声が多く上がるようになりました。そしてそんな職員に触発されて私も何かやりたいですという職員も出てきたり。

以前から、残業を減らす働き方改革を重点的に行っていたこともあり、それが原因による離職はありませんでした。しかし、それだけでは十分ではなく、長く働き続けてもらうためには、その先にある“働きがい”が必要だと考えていました。キャリアパス制度で求められていることが明確になり、評価や面談で自分の得意・不得意を知り、園の中で自分は何ができるかを考えることが、一人ひとりの働きがいにつながってくれたら嬉しいです

ーー人材の定着や離職防止には役立っていますか。

採用については、現在は法人として2園と比較的コンパクトな規模で運営しており、実習生や卒園児の入職、保護者(保育士資格をお持ちの方)など、ご縁のある方々とつながっています。また、「空きがあれば入職したい」といったお問い合わせをいただくこともあり、大変ありがたく感じております。

一方で、早期離職を防ぐための仕組みは意識して作っています。園BOOKの中に新卒や新しく入った人への指導についても明記しています。誰が何を教えるか、何月に何を学ぶかを決め、正職員とパートでも教える内容を分けています。注意や指導も誰が伝えるかを明確にし、誰でも直接指導してよいわけではない形にしています。教える人によって言うことが違うということもないですし、順番に学んで覚えていけるので新人にとってもわかりやすいと思います。今のところ、その仕組みによって一年目の職員も定着しており、効果はあると感じています。

これからの園づくり

ーー今後、園をどのようにしていきたいですか。

今後は、園としてのゴールをさらに明確にしながら、一人ひとりの得意・不得意を可視化し、その中で自分は何ができるのかを主体的に考えて動ける環境を作っていきたいです。やはり良い保育園を作るためには園長の力だけでは無理で、保育現場を担う先生たち自身が良くなって園としての力を底上げしていくことが必要だと思います。

今までは、「子どもに対して良く、保護者に対して良く、先生に対して良く」と思ってやってきたんですが、今年はさらに「地域に対して良く」というテーマを掲げています。希望しても園に入れなかった人や関心を持ってくれた人たちが利用できる場を作っていきたいです。地域に貢献することもまた、私たちの存在意義だと思うので。

また、社会における保育士という仕事の見え方も変えていけたらと思っています。
保育はとても良い仕事ですし、ライフスタイルが変わってもキャリアを諦めなくていい仕事であり、今は一般企業に引けを取らないくらいの給与が得られる仕事になっているのですが、「昔の保育士像」があるのか、今の実態が浸透していないと感じています。実際に、私たちの園では昨年は育休中の職員が5人いましたが全員戻ってきましたし、結婚や出産といったライフイベントがあっても正職員を辞めず、自分の子どもを園に入れて戻ってくる職員もいます。だから、そんな実態を発信して保育士を目指す人が増えたらいいなぁと思っています。

キャリアパス導入を考えている保育施設へ

これから導入を考える方には、完璧なタイミングを待つより、必要だと思った時に始めた方がいいと伝えたいです。最初から完璧なものは作れないですし、毎年のように園の状況や職員の働き方も変わります。運用を始めたことで私たちのマネジメント力もついてきているので、制度への理解や見え方、ここをもっとこうしたいという要望も出ます。
だから、ネクサスさんにその時々の課題に寄り添って伴走してもらう中で作り上げていけるものだと思っています。

人材育成の仕組み化は、実際、後回しにされがちな仕事だと思います。重要だけど緊急ではない、来年でもいいか、というような。でも緊急ではないからこそ早く始めることが大切だと、作ってみた今は心から思いますね。

ーー インタビューは以上です。改めて、制度は運用しながら見直していくことが重要なのだと実感しました。貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

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