保育園における理念の役割|あなたの園の理念は浸透していますか?

保育園,基本理念,保育方針,保育目標,理念の共有

投稿日:2022年6月1日

保育園の管理者層とお話しする中でよく出てくる悩みがあります。

・受け身な職員にもっと主体的に動いてほしい
・園の一員としての自覚を持って行動してほしい
・周りに目を配って臨機応変に対応してほしい

園という組織の中で自分の役割や立場を理解し、自ら考えて動いてほしいということですね。今回は、理念というテーマを通してこのお悩みに答えていきたいと思います。

目次

組織とは何か|保育士に伝えたい組織の話

そもそも、みなさんが所属する「組織」とは何でしょうか?

・”果たすべき使命”を持っていること
・所属する一人ひとりが役割を持って能力を発揮しながら協働していること

それが、組織の定義です。では、”果たすべき使命”とは何でしょうか?

サービスの提供を通して顧客を幸せにすること

組織の主な目的はサービスの提供です。

社会にはたくさんの組織が存在していますが、サービスを提供しなくて良い組織は存在しません。私たちの組織は、誰を顧客として、どのようなサービスの提供を通し、どのような幸せを提供したいのか。これが、組織の原点となり原動力となります。

保育はサービスではなく福祉である、という議論についてはまた別の機会に記したいと思います。

仕事を通して働く人たちを生かすこと

組織が幸せにするのは顧客だけではありません。組織は、働く人たちの自己実現を測る場所でもあります。

生活するための収入を得ること
社会的な肩書きを得ること
多くの人と関わり、その人たちを幸せにすること

「この組織に所属することで何が得られるのか?」という問いに答えていくことも、組織の大切な役割です。

社会と関わり、良い影響を与えていくこと

組織には、自らが社会に与える影響を考え、問題があれば改善していくことも求められています。

たとえ環境問題のように規模の大きな問題であっても、社会の一員として社会問題の解決に積極的に貢献していく、という役割を担っています。

組織目標の共通理解|どんな園をどんな保育者を目指すのか

保育園が「選ばれる時代」を迎えて、それぞれの「個性」が園に求められています。改めて「私たちの園はどのような目的を持った施設なのか」について理解を深め、共通理解を図ることが重要になります。子どもの人格が形成される、とても大切な時期を過ごす施設だからこそ、しっかりとした役割意識と使命感を持って保育にあたらなければなりません。

–– 私たちは、どのような園・保育者を目指すのか ––

ここに集うすべての人が、想いを共有し、事業の目的を理解し、自分たち自身の進むべき道標として判断の拠り所になるもの、それが組織目標です。変化の激しい時代だからこそ、変えてはならないもの、失ってはならないものをはっきりと意識して、仕事の課題に立ち向かっていくことが大切です。それは、変わってはならない軸の部分を守るために、あらゆる変化に対応していくということです。

ここからは、保育園にある組織目標の代表として3つ、基本理念・保育方針・保育目標について考えていきます。

基本理念|保育園における究極の目的

基本理念とは、組織の究極の目的を明文化したものであり、その園が社会に存在し続ける意味を明示したものでもあります。つまり、私たちの仕事は「誰のために」「どのような目的で」行っていて、その仕事を通して「社会の中でどのような存在でありたいのか」が示されています。また、働く職員の幸せ、成長への意欲についてもここで明示されています。これらは言い換えれば、園の共通の価値観(ものの考え方、物差し)です。この基本理念をベースにして、日々の保育や職員の行動などが展開されていくのです。

保育園で掲げる理念は、スローガンのようなもの、コンセプト、宣言と様々な形があります。一般企業に比べると抽象的な表現になっている場合が多いからか、法人理念や園ごとの理念、経営理念、保育理念と何に対する理念なのかを分けている園も見受けられます。

あなたの園の理念はどのようなものですか?理念に込めた想いは全職員に共有できているでしょうか。もし時代に合わなくなってきている、形骸化してしまっている、という場合は職員を巻き込んで作り直すこともおすすめです。「子どもたちにとって」「保護者の方にとって」「地域の方にとって」「職員にとって」どんな園でありたいのか選ばれる園になるために、原点に立ち返りましょう。

保育方針|理念に対する保育の方向性

基本理念の実現のために、具体的にどのような方向性で保育をしていくのかを定めたものが保育方針です。

全ての保育施設には、子どもの最善の利益を考慮し、子どもの福祉を積極的に増進するという共通の役割があります。しかし、その役割を果たすための保育のあり方は様々です。それぞれの園に、特色や独自の保育方針があり、また、施設の規模や地域性などに合わせて保育を展開していく必要があります。どの園にも園独自の「保育のこだわり」があります。それを共有し、子どもたちの未来を見据えた長期的な視野で保育を行っていきましょう。

登山に例えるなら、頂上が理念、登頂(理念を実現)するためにどのようなルートで登っていくのかを示したのが保育方針、園全体のベクトルを合わせるイメージです。

保育目標|子どもの育ちの理想の姿

保育目標とは、園の基本理念を基に、その成果として目指すものであり、「こんな子どもに育てたい」という想いが込められています。保育園が今預かっている子どもたちをどのように成長させ、小学校に送り出したいと考えているかを明らかにした、保育園生活における園児成長の達成目標といえます。保育目標は「〜な子ども、〜な子」という形で表現している園が多いのではないでしょうか。ですから”子ども像”と呼ばれることもあります。

保育目標で設定された「子どもたちの姿」の延長線上に基本理念で目指す「人間の姿」があります。保育目標が成長の「必達目標」であることを考えれば、達成できているかどうかの目標値があることが望ましいのですが、子どもの成長を数値化することは難しいため、結果だけでなくそのプロセスに目を向けることが大切です。

保育目標を考える際は、10の姿も参考になります。幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を意識することで、見通しを持った保育を意識できるでしょう。もちろん、10の姿も園の保育目標に掲げる子ども像も、卒園時に100%できるようにならなくてはいけないということではなく、子どもたちが歩み出している方向を表すものです。子どもたちの長い人生の基礎になる部分として、保育者が指導に力を入れるべき視点として捉えましょう

保育目標,指導計画

保育目標と指導計画は密接につながっています。このつながりを意識した計画を園全体で立案できれば、一貫性のある保育を実践できます。

保育園が重視すべき理念の共通理解

理念はあるけど浸透はしていない、という園も少なくないでしょう。理念は明文化して終わりではなく、浸透させていくものです。

まずは1年に1回は全職員で共有化をする機会を設けましょう。理念を知っている状態から理解している状態にするには、理念に込められた想いやどうしてこの理念になったのかという背景も伝えることが必要です。
もし、園内に理念を作った方がもういないという場合、誰も理念の背景を知らないという場合には、この理念をどう解釈するのかという認識を統一した方が良いでしょう。同じ文章を読んでも、同じように理解するとは限りません同じ言葉を使っていても、同じ意味で使っているとは限りません。特に保育園の理念は抽象的なことが多いので、この理念ってこういう意味だよね?という共通理解を図ることが大切です。

理念を判断の拠り所にする場面の例
・仕事の中で迷う場面があった時、AとBの方法だとうちの園ならAだなと判断の軸にできる
・後輩指導の仕方につまずいた時、私たちの保育はここを目指しているからこういう行動が望ましいと指導できる
・保護者対応で何か要望を伝えなければならない時、私たちの園の方針はこうでこの活動の目的はこうなので保護者の方にも協力していただきたいと説明できる

保育園における理念の浸透方法としてエピソードで共有することをオススメしています。先輩保育士たちの経験を後輩保育士たちに語るのです。

・どんな時に理念や方針を意識するか
・園長や先輩職員から指導されたときに印象的だった言葉
・実際にあった、理念をもとに判断した場面
・他園での経験がある職員が驚いた、この園独自のこだわり
・仲間の保育を見ていて「うちの園らしさ」を感じた出来事
・保護者や外部の人から「この園らしいね」と言われた出来事

理念という抽象的なものを理解するためには、言葉だけの理解ではなく「そういうことか」という腑に落ちる経験が欠かせません。語り継いでいくことで共通認識は高まり、組織文化の醸成にもつながるでしょう。

また、この共通理解は園の職員だけでなく、保護者や地域に対しても理解を深めてもらえる働きかけを行いましょう。子どもの成長にとって園と保護者の連携は不可欠ですし、園の保育を理解してもらって共感した上で入園してもらうことも重要です。採用活動においても、園のポリシーやこだわりをはっきりと示すことができれば入職後のギャップを小さくできます

判断の拠り所があれば人は主体的になれる

人が主体的に動くためには、自分の考え方や判断に自信を持つことが必要です。

新人保育士が言われたことはきちんとできる、のは指示された事が先輩保育士の判断によって決められた事だからです。その範囲を超えて自分で判断しなくてはならない場面では、当然不安がつきまといます。しかも自分で考えて行動した結果が、園にとって違ったものであったとき、「私の考え方は間違ってるんだな」という経験が残って次の行動のブレーキになります。それが続けば、指示待ち人間を育てることになるでしょう。だからこそ、最初から判断基準を示すことは重要です。

人材育成でうまくいかないことがあったら、一度、理念を始めとした目的の再共有をしてみてください。園として大事にしているものは何なのか、うちの園らしい考え方とは何なのか、または「こういうことを大事にしているからこんな行動がうちらしいよね」という共通理解を図ってください。

その上で「この仕事はあなたの判断に任せるよ」という仕事を与え、その後、どう考えてその行動につながったのかを確認しフィードバックします。もし結果が伴わなくても、考えるプロセスが園の考えとずれていなければ人材育成的にはOKです。経験を重ねることで主体的に動ける職員になるでしょう。逆に結果は申し分ないけど判断の軸がずれている(自分軸になっている)場合は要注意です。小さなズレが大きな問題に発展することもあり得ます。

理念の共有から始めよう

・受け身な職員にもっと主体的に動いてほしい
・園の一員としての自覚を持って行動してほしい
・周りに目を配って臨機応変に対応してほしい

このようなお悩みに対する一つの解決方法として理念の共有について考えてきました。人材育成の課題はつい、解決の手立てが個人に向きがちですが組織づくりが解決の糸口を握っていることが多々あります。組織の一員として頑張ってほしい方向性を明確に示すこと、それは組織の役割です。

そして園として大切にしたい保育観やこだわり、それが詰まっているのが理念です。それをベースに経営、保育、職員育成の方針や計画が作られていくものです。すべての活動の原点ですから、まずは全職員と理念の共有から始めましょう。

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