令和8年度「ミドルリーダー育成推進事業」新設|なぜ今、保育現場でミドルリーダーが注目されているのか

投稿日:2026年4月17日

令和8年度、こども家庭庁が「保育士等のミドルリーダーの活躍による保育の質向上推進事業」を新設しました。国がミドルリーダーの育成を政策として正面から取り上げた、初めての試みです。

「ミドルリーダーを任せられる人材がいない」「ミドルリーダーが機能していない」——そんな悩みを抱えてきた園は、少なくないのではないでしょうか。このコラムでは、なぜ今この事業が生まれたのか、その背景にある保育政策の流れとミドルリーダーに求められる役割を整理します。ご自身の園の状況と照らし合わせながら読んでいただけると嬉しいです。


目次

「量から質へ」——保育政策の大きな転換

日本の保育政策は長らく、「待機児童の解消」を最重要課題としてきました。保育所を増やし、受け入れ枠を広げる——「量」の確保が優先されていた時代です。

しかし、その状況は変わりつつあります。

2026年(令和8年)に本格スタートした「こども誰でも通園制度」は、保育を「共働き家庭のもの」から「すべての子どものもの」へと広げる制度です。この変化は、保育に求められるものが「量的な受け入れ」から「一人ひとりの子どもに向き合う質の高い保育」へと移ってきたことを示しています。

政府が策定した「こども未来戦略」においても、保育の「量」の整備から「質の向上」への転換が明確に打ち出されています。保育政策は今、大きな転換点を迎えています。

しかし「保育の質」は、施設や制度だけでどうにかできるものではありません。最終的に質を左右するのは「人」であり、人材が定着し、職員一人ひとりが育つ土壌をつくることが、結果として質の向上につながります。だからこそ、計画的な人材育成の仕組みをつくることが、保育業界全体の課題になっています。


ミドルリーダーとは何か

「ミドルリーダー」という言葉に、明確な定義はありません。保育現場では副主任・専門リーダー・中核リーダーといった名称で呼ばれることが多く、処遇改善等加算(キャリアパス要件)の中でも重要な位置づけとされています。

共通しているのは「園長と一般職員の間に立つ、中間層のリーダー」という役割です。現場の実務を担いながら、チームをまとめ、若手職員の育成にもかかわる存在といえます。

ミドルリーダーに期待される役割は、大きく3つです。

❶ 園の方針を現場に届ける
園長の考えや園の方向性を、職員が自分ごととして理解できる言葉に置き換え、日常の保育実践に落とし込む役割です。

❷ チームワークを促進する
さまざまな考えを持つ職員同士の対話を促し、協働しやすい職場環境を整える役割です。

❸ 保育の質と人材育成を支える
日々の保育から気づきを得て実践の質を高めるとともに、若手職員の成長を継続的に支援する役割です。

ミドルリーダーは、単なる「中間管理職」ではありません。園長と現場をつなぎ、チーム力の向上を図る存在です。


なぜミドルリーダーがいないと困るのか

では、ミドルリーダーが育っていない園では、実際にどのような問題が起きるのでしょうか。

現場でよく聞かれるのが、「園長・主任への業務集中」です。「自分がいないと園が動かない」「職員一人ひとりに向き合う時間が取れない」——こうした状況は、保育現場では珍しくありません。

組織論には「統制範囲の限界」という考え方があります。一人のリーダーが適切にマネジメントできる人数は、6〜7人が上限とされています。職員が20〜30人規模の園であれば、園長一人で全員に十分なかかわりを持つことは、構造的に不可能です。これは個人の能力の問題ではなく、組織の構造的な課題です。

また、多くの保育園で長らく続いてきた「鍋蓋構造」——主任が1人いて、あとは全員が横並びという組織——では、現場をつなぎ、保育を主体的に改善していく「推進役」が存在しません。

このことから、ミドルリーダーがいない組織では、次のような問題が生じやすくなります。

  • 園長の判断なしには物事が進まない
  • 若手職員が育たず、定着率が下がる
  • 保育の質が個人の力量に左右されてしまう
  • チームとして一体的な保育が展開できない

逆に言えば、ミドルリーダーが機能している園では、園長が園全体の方向性を考えることに時間を使えるようになり、組織としての安定性と保育の質が高まります。


令和8年度「ミドルリーダー育成推進事業」の概要

こうした現場の実情を踏まえて生まれたのが、令和8年度の「保育士等のミドルリーダーの活躍による保育の質向上推進事業」です。

この事業は、保育所・幼稚園・認定こども園などで中核的な役割を担うミドルリーダーの活躍を推進することにより、保育の質の向上を図ることを目的としています。ミドルリーダーが現場でいきいきと機能できる環境を、自治体レベルで整えることが狙いです。事業の概要は以下のとおりです。

項目内容
事業名保育士等のミドルリーダーの活躍による保育の質向上推進事業
実施主体都道府県または市町村
補助基準額1自治体あたり500万円
負担割合国1/2・地方1/2
対象経費(例)下記参照

対象経費の例

  • 研修の実施に要する費用(会場費・資料作成費・講師謝金など)
  • 研修参加中に園が活用する代替保育士の雇上げ費用
  • 経験豊富な保育士等が他の園を支援する際の費用
  • 外部の有識者・専門家への謝金

出典:こども家庭庁「保育の質の確保・向上に関する政策について」(令和8年3月)/令和8年度保育関係予算案の概要

「ミドルリーダーの育成が保育の質向上に欠かせない」と国が位置づけたことで、現場での取り組みに政策的な根拠が生まれました。「ミドルリーダーが必要だとはわかっているが、現場にどう説明すればよいかわからなかった」という方にとっては、この事業がひとつの後ろ盾になるはずです。

処遇改善等加算のキャリアパス要件においてもミドルリーダー層は重要な役割を担っており、人材育成と処遇改善を一体的に進めるという保育行政の方向性とも、この事業は一致しています。


各園が今から考えておきたいこと

自治体による事業の実施を待つだけでなく、各園が今から取り組んでおける準備があります。

まず、「ミドルリーダーに何を期待するか」を言葉にすることです。

肩書きを与えただけでは、ミドルリーダーは動けません。「何を任せるのか」「どこまで判断してよいのか」「どんな行動を期待しているのか」——これを園長が具体的に言葉にして伝えることが、育成の出発点です。「うまく機能していない」と感じているミドルリーダーの多くは、能力がないのではなく、期待されていることがわからないまま動いているケースが少なくありません。

次に、スモールステップで任せる機会をつくることです。

マネジメントのスキルは、経験を通じてしか育ちません。小さな権限委譲から始め、振り返りの機会をつくりながら、段階的に役割を広げていく育成が大切です。

そして、育成を「仕組み」に落とし込むことです。

一時的な研修や個人の努力に頼るだけでは、育成は定着しません。キャリアパス制度や人事評価の仕組みと組み合わせることで、ミドルリーダーの育成が組織の文化として根づいていきます。


まとめ

令和8年度の新事業は、保育現場のミドルリーダー育成に対する、今後の方向性を示すものです。「量から質へ」という保育政策の転換を背景に、現場の人材育成こそが質を決定づけるという認識が、政策レベルで共有されたということではないでしょうか。

大切なのは、この流れを自園の組織づくりを見直すきっかけとして主体的に活かすことです。ミドルリーダーの育成は、すぐに結果が出るものではありません。しかし今から少しずつ積み重ねていけば、必ず現場は変わっていきます。

この動きを、自園のミドルリーダー育成を考える良い機会にしてみてください。

執筆:杉村基樹(株式会社ネクサス代表取締役)

株式会社ネクサスは、保育施設に特化したキャリアパス設計・人材育成支援を行っています。
ミドルリーダー育成の具体的な進め方については、お気軽にご相談ください。

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